2019 Fiscal Year Research-status Report
Research and Development of curriculum based on Knowledge in Pieces framework
Project/Area Number |
19K03140
|
Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
山田 吉英 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(教員養成), 准教授 (30588570)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
Keywords | 断片知識論 / p-prims / 実践記録 / 板倉聖宣 / 仮説実験授業 / 玉田泰太郎 / FCI / 科教協(科学教育研究協議会) |
Outline of Annual Research Achievements |
断片知識論とその適用先dataの文献収集・調査、および試行的な教育実践を行い、一部を日本物理学会で資料報告した。関連して仮説実験授業提唱者板倉聖宣の論考についても限定的ながら調査を行い、断片知識論の観点から意義を検討した。科学史家の文献により、武谷三男から広重徹と板倉聖宣へ、また広重から山本義隆への物理学史・物理教育の系譜を見出した。ここには科学教育における科学の通俗化の問題(本質を失わずどのように単純化するか)が横たわっていることに気づいた。 実践においては、diSessaの流れをくむA. ElbyのOpen Source TutorialsとJ. MinstrellのFacet Diagnoserおよび板倉聖宣の仮説実験授業や科学シアター等を教材として修正して用いるとともに、玉田泰太郎のノート指導方式で指導を行った。Force Concept Inventoryによるgainは0.47でまずまずの結果であった。ただしpretest平均0.67というやや高い層であったため本実践結果の学校教育への外挿はほぼ不可能と思われる。Dataとして得られた実践記録(学生ノート)から次年度以降の実践に向けて課題・論点が明確となった。教材が意図する論点に教師が誘導を行うものの、その精度・効率に改善の余地ができた。この点は教師の実践の熟達と、先行実践記録による学習者の実態把握を行う他なさそうである。実践記録の蓄積は民間レベルで不活性になっているが、国際的には文献として積み重ねられ続けている。ただし実践そのものの記述が軽視され「科学的data」として短縮要約されてしまっているため、実践報告の価値が主張されねばならない。 本研究の目的であるp-primsリストの校正に関して、科教協の実践記録一般をdataとして扱う可能性を検討したが、仮説実験授業の詳細な記録に限定して良かろうと結論した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ただちに仮説実験授業記録のp-prims的分析に入る前に、科教協(科学教育研究協議会)の実践記録一般に資料収集・調査を拡大しdataとしての有用性を検討した。本研究で再利用する先行研究dataとしては仮説実験授業に集中して良いと判断した。これは仮説実験授業の方が、他の実践(玉田泰太郎をその中心人物と考えて良い)と比べて、子供達の素直なp-primsを活性化しているためである。ただしこのことは実践的には「パンドラの箱を開く」ようなものかもしれない。本研究の主旨からすれば、仮説実験授業の実践記録はどれをとってもそれ自体が断片知識論の(一貫説に対する)実験的証拠とみなすことができる。詳細な事例の引用による正当化は(もちろんある程度行ったし引き続き行うのではあるが)ややアカデミックな過剰防衛のようにも思われる。ともあれ、このような「外堀を埋める」作業を行ったことは当初計画からのズレである。 他方、研究計画の2年目から行うことにしていた教育実践を、諸事情により試行的に1年目から行うこととなった。PERのTutorialsスタイルと科教協の玉田方式にはそれぞれ一長一短あるが、今回は後者を採用した。おおむね想定通りの結果と今後の検討課題を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画に関して、2点、明確にすべき事柄がある。 第一に、我が国における断片知識論の普及の必要性である。diSessaの論文は、率直に言ってやや難しい。村山功氏の優れた解説論文はたいへん有用であるが、物理教育研究コミュニティへの普及をさらに促進するような資料を用意したいと考えている。本研究の成果がコミュニティに共有される前提を強化しなければならない。 第二に、diSessaの断片知識論は初学者の知識構造と熟達者の知識構造のおおまかなモデルを含んでいるが、それは具体的に実践を導くほど強い主張を行っているわけではない。この点を補うものとして現在、D. HestenesのModeling Theoryの検討を行っている。Hestenesの科学モデル・教育モデルは彼自身のGeometric Algebraと一体をなしており、物理における伝統的な数学の扱いを改革する大胆な性格のものであるが、慎重な検討と実践展開を行いたいと考えている。本研究で行う実践は一般教育レベルであるため、幸か不幸か数理的な扱いは多くない。伝統に対してさほど「逸脱的」な授業をすることは避けられるだろう。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルスによる学会の延期・遠隔開催に伴う旅費ほかの用途修正のため。
|