2019 Fiscal Year Research-status Report
学校との協働による「菜の花しらべ」の展開に向けた実施モデルの構築に関する研究
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19K03167
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Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
西沢 徹 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(教員養成), 教授 (80414382)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | アブラナ類 / 生物教材 / DNAマーカー / 環境調査 / 理科教員養成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,身のまわりで生育している植物を活用して,地域の学校と協働しながら実感を伴った理解を図るための生物教材である「菜の花しらべ」の実施モデル構築を目指し,身近なアブラナ類を題材とした“多様性と共通性”の双方が認識できる体感的な生物教材の開発を目的としている。 国内のアブラナ類の自然群落は,アブラナBrassica rapa,セイヨウアブラナB. napusおよびカラシナB. junceaの概ね3種から構成されている。地域によっては,これらが同所的に,混成して分布している。したがって,身近な植物群落を対象とした,植物の多様性を見いだす環境調査活動である「菜の花しらべ」の題材となるポテンシャルを有している。アブラナ類のそれぞれがどのような割合で野外に分布しているのかについて,小中学校などの学校現場と協働しながら探究活動を実施できないか検討している。 しかし,これら3種は互いに系統的に近縁で,外部形態の特徴については多くの形質を共有しており,識別に迷う場合が多い。花期がやや遅れる点や,茎に対する葉の付き方や花の大きさが他の種と異なる点で,カラシナは比較的容易に識別することができる。一方,アブラナとセイヨウアブラナは類似点が多く,外部形態に基づいた識別が特に困難な場合がある。このため,DNAマーカーによる種の判別技術によって,アブラナとセイヨウアブラナの識別を補完する系の確立が求められている。先行研究で,核及び葉緑体DNAを対象とした分子マーカーの開発に着手しており,一部,汎用可能なマーカーの捕捉に成功している。しかし,自然群落に存在する遺伝的変異を検出するためにはまだ解像度が不足しており,マーカー数を増強したり,より多型的な遺伝子座を捕捉したりして,種判別の解像度を上げていく必要がある。本研究では,マーカーの開発によって,分子種判別系の確立を一つの目標としている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
マーカーの実用性を検定するためには,自然群落から採取した多数の検体を用いて,実際に遺伝子型の決定を行い,種に特異的なDNAマーカーを絞り込んでいく必要がある。このため,野外から採取した多数の葉片試料からDNAを精製し,それぞれの試料を対象に,マーカーの候補となるDNAの領域をPCRで増幅するプロセスが必要になる。研究の実施開始年度となる2019年度は,先行研究で採取して保管されていた葉片試料からDNA精製を進めた。葉片試料からのDNA精製はPlant Genomic DNA Extraction Miniprep System(,VIOGENE社製)を用いたカラム精製によって行った。さらに,今後の研究の進展に伴い,多数の検体を扱うことが見込まれるため,本助成によって微量成分分光光度計を新たに導入した。その結果,極めて微量な容量で核酸溶液の濃度測定を行えることから,野外から採取したアブラナ類の検体試料について,濃度測定時のロスを最小限に抑えることが可能となった上に,簡便な操作で測定できることから,PCRの鋳型となるDNA試料を効率よく調整できる体制が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
試料からのDNA精製とPCRによる遺伝子型の解析を行い,開発したDNAマーカーで3種のアブラナ類が識別できることを確認し,分子マーカーによる判別系を確立する。学校現場と協働した野外調査の実施に向けた調整について,附属学園(前期課程及び後期課程)を端緒に開始する計画であるが,新型コロナウィルスへの感染防止対策に伴う制約(学校現場との接触の制限)も想定されることから,当面は,先行研究でマーカーの候補対象となっている遺伝子座(DNAの塩基配列)を対象に,安定したPCR条件ならびに変異の検出法法(特にPCR-SSCP法)の確立に注力する。感染の拡大が収束した時点で,学校現場との調整を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
大学からの運営費交付金(自己収入)による購入や,以前に購入した保有試薬類の使用によって,試薬消耗品類の購入に充てる執行がなかったため。
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