2020 Fiscal Year Research-status Report
Study on the factors that divide pseudoscience from scientific attitude and its application to education of critical thinking
Project/Area Number |
19K03170
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
菊池 聡 信州大学, 学術研究院人文科学系, 教授 (30262679)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 疑似科学 / 批判的思考 / 超常信奉 |
Outline of Annual Research Achievements |
疑似科学(pseudoscience)の主張は、実験や観察などの経験的・実証的手法にもとづいて主張され、科学の外観を備えている。そのため多くの市民に受容されるが、実際には科学としての適格性を欠く主張である。これらは、特に健康・医療や環境、教育などの領域で社会問題を引き起こすことがある。こうした疑似科学を無批判に受容・信奉する態度(疑似科学信奉)は、一般には科学知識や科学教育の不足に原因を求める欠如モデルからとらえられるが、本研究ではこれらが単なる知識不足ではなく、環境適応的な心理システムに起因する性格を持つことに着目した。そして、疑似科学信奉が個人の適応的な認知特性とその発達に影響を受け、領域横断的な批判的思考によって抑制されるという仮説を実証的に検討し、その知見をもとにした教育教材の開発を目指している。 本年度は、前年度に大学生268名を対象に行った調査データを分析した結果から、向社会行動が超常的な疑似科学の信奉と正の関連性を持つことを明らかにした。しかし、予想された向社会性と科学リテラシーとの交互作用は見られず、科学リテラシーの効果のみが有意で、欠如モデルを裏付ける結果であった。これらの結果にもとづいて本年度も継続的な調査を進行させるとともに、日本心理学会第84回大会で「疑似科学信奉と向社会的行動の関連性」として報告し関連研究者とディスカッションを行った。また、疑似科学の文化現象的側面に着目した考察を『サブカルチャーの心理学』(山岡重行編,福村出版)の1章として上梓し、広く心理学の知見について情報発信を行った。 これまでの研究で疑似科学概念の規定要因の分類やその変容について得られた知見をもとに、本年度は調査質問紙を再設計して大学生と高校生を対象とした発達的変化を含めた調査を実施してデータの収集・分析を行った。この成果は次年度に心理学会や学術論文などで報告する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は、疑似科学信奉や超常信奉と、個人の認知特性や科学リテラシー、批判的思考態度などの諸変数についての調査データの分析や文献精査を行い、その知見をもとに新たな調査を大学生高校生を対象に継続的に実施することができた。前年度の成果を発信できたこともあわせて、これらの点ではおおよそ予定通り研究は進行している。 ただし、当初の研究計画にしたがえば、本年度には疑似科学を規定する認知特性が発達的に変化するという仮説のもとに中学生・高校生・大学生・成人などの広い対象層で横断的な調査と実験を実施する計画であった。しかし、感染症拡大による社会状況の影響のため、予定されていた複数の調査実施が困難となり、大学生以外で十分にデータ収集ができなかった。この点で、研究計画全体としては遅延することとなった。一方、本年度までに得られたデータの分析により、尺度の改良や関連認知変数の精緻化が進展したため、これらを次年度に反映させることとした。また、当初計画では、疑似科学についての潜在的認知や、熟慮性などの認知変数を、実験室実験で検討する予定としていたが、これも社会状況により実施が難しい状況となった。そのため、オンラインで実施できる実験課題に変更し、本年度はその予備的な試行を進めることとした。 以上のように当初予定していた計画に遅延や変更が生じているが、計画の詳細を見直して次年度の調査実施や教材試作につなげる予定としている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初研究計画では、最終年度となる次年度に補足的な調査を行い、疑似科学に関する知見をフィードバックした批判的思考教材モジュールを試作して、授業に導入して有効性を検討する予定であった。しかし、本年度の進捗の遅れから、予定を変更して次年度にさらに広範囲な年齢層での調査やオンライン実験を実施して、疑似科学と認知特性の関連性を発達的変化を含めて検討する予定である。これら研究実施に際しては、本年度までに得られた分析や考察から得られた知見をもとに、検討変数を絞り込むとともに調査尺度や方法を改良することで、効率的なデータ収集を行う予定である。特に疑似科学における「超常的な原理にもとづく主張」と、「(必ずしも超常的な要素を含まず)正統な科学としての要件を欠いたまま科学的根拠を装う主張」という2形態への信奉が、それぞれ異なる認知変数と特有な関連性を示すことに注目した調査・分析を推進することとする。 また、こうした疑似科学の受容は広く社会的に問題となる現象であり、研究成果を積極的に発信する予定である。本年度の調査結果から、認知的熟慮性や批判的思考態度についての検討結果を、日本心理学会において発表予定としており、研究全体を通してまとめた知見を一般向けにも発信するシンポジウムや書籍の準備も進行させている。
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Causes of Carryover |
感染拡大により当初予定していた高等学校などでの調査の一部が延期となったため。次年度の調査を行う際に執行する予定である。
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