2021 Fiscal Year Research-status Report
The dark side of help-seeking
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19K03190
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| Research Institution | Shizuoka University |
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Principal Investigator |
橋本 剛 静岡大学, 人文社会科学部, 教授 (60329878)
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| Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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| Keywords | 社会心理学 / 援助要請 / 援助行動 / ソーシャルサポート / 文化 / 感情 / シャイネス / 社会規範 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
援助行動やソーシャルサポートを活性化するために、潜在的に援助のニーズを有する人々は、自ら積極的に援助要請するべきであるという論調が、近年高まっている。しかし、援助要請を推奨・促進することで、翻って種々の悪影響や弊害が生じる可能性も考えられる。たとえば、安易な援助要請の推奨によって、不要不急の過剰な援助要請も増加してしまい、援助資源の浪費や逼迫、不適切な分配などの問題が生じうることが考えられる。また、援助要請の推奨は、声を上げない人にも自発的に配慮するべきという道徳や社会規範と齟齬を来す側面もあり、諸事情によって声を上げられない人々をさらに困窮させかねない、という逆説的な問題がある。さらに、援助要請の推奨による援助要請の規範化は、「援助要請は自己責任」という拡張的解釈に繋がり、それが援助要請抑制者への冷淡な態度、自発的援助の抑制、傍観者効果の増幅などをもたらすことも懸念される。しかし、このような「援助要請を推奨することのダークサイド」について、これまで心理学ではほとんど検討されていない。そこで本研究では、これらの論点を中心として、援助要請の推奨がさまざまな悪影響をもたらしうる可能性について検証するものである。
令和3年度は、令和2年度に心理学評論の特集企画「助け合いの諸相と陥穽」で刊行された論考に基づくシンポジウムを、日本心理学会年次大会において実施した。また、令和2年度までに実施された実証研究の成果について学会発表を行った。具体的には（1）援助要請の推奨が被推奨者の感情に及ぼす影響に関する質問紙実験、（2）援助要請スタイルの個人差と適応に及ぼす個人規範と社会規範の影響、（3）援助要請とシャイネスの関連およびそれらの規定因、に関する研究である。さらに、日本人は自らの貢献感認識が低いが故に援助要請を抑制しやすいという文化差に関する論文を刊行した。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の主要成果を以下に概括する。まず、援助要請の推奨者と推奨対象の関係性によって、援助要請が被推奨者の感情等に及ぼす影響を検討した一連の研究において、身近な知人が自身への援助要請を推奨した場合はポジティブ感情が喚起されるが、専門家への援助要請を推奨した場合はポジティブ感情が喚起されないことについて、複数の国際学会で発表した。ちなみに研究発表はコロナ禍による学会開催延期で1年遅れとなった。また、依存型援助要請は不適応的という通説に反して、依存型がむしろ心理的適応を促進する可能性について、複数学会にて発表した。援助要請スタイルと性役割やシャイネスに関わる研究では、援助要請スタイルが性役割やシャイネスとはそれほど関連せず、しかし性役割規範によってその効果が異なる可能性が見いだされた。これらの知見から、援助要請の推奨や依存型援助要請の効果は、文脈によって少なからず異なることが示唆された。さらに下半期には社会規範に加えて、道徳基盤や公正感受性などの要因を加味した調査研究を新たに実施した。
このように一定の研究成果は得られたが、前年度に引き続きコロナ禍による影響で、研究の進捗状況が当初計画と異なるものとなっている側面もある。令和3年度も前年に引き続き、国内・国際学会がオンラインとなるなど研究活動に制約が生じた側面もあり、一方で旅費には余剰が生じることとなった。令和2年度はその余剰を調査研究経費として活用したので、研究が当初計画以上に進展した部分もあった。しかし、令和3年度は所属部局において想定外の要職に着任し、業務の多忙さゆえに、本研究に十分なエフォートを割くことができず、結果的に研究への取り組みや研究費の執行に遅滞が生じてしまい、最終的に事業期間を延長することとなった。このような現状を踏まえて、進捗状況については「やや遅れている」という評価が妥当と判断した。
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| Strategy for Future Research Activity |
本年度は当初計画になかった事業延長期間であり、令和3年度までに完了に至らなかった研究計画の遂行を中心として研究を展開する予定である。これまでにデータ収集および学会発表を行った研究の論文執筆と刊行、および前年度に実施された実証調査研究の学会発表や論文執筆などを予定している。なお、今年度も国内外学会の年次大会などはコロナ禍の影響で実施形態等が不透明な側面もあるが、昨年より対面形式での開催予定学会が増加しているなど状況も若干ながら好転しているので、それらの機会を積極的に生かして議論の機会を増やし、その成果を研究内容に反映させることが期待されよう。さらに、今年度は延長期間ということで、研究費などは従前より制約があるものの、その可能な範囲内で、これまでの研究において検討不十分となっている論点の補完的研究、およびコロナ禍を含めた最近の動向を踏まえて新たに浮上した論点に関する研究に取り組む予定である。
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| Causes of Carryover |
当該年度も前年度に引き続き新型コロナ感染症パンデミックの影響により、参加を予定していたすべての国内外の学会がオンライン開催に変更された。それに伴い、当初想定していた旅費支出が全面的にキャンセルとなり、その多くは追加分の研究計画予算として執行されたが、それでも余剰が生じたのが、次年度使用額が生じた主な理由である。加えて、所属部局において要職に着任し、その業務多忙ゆえに、当初想定より本研究に十分なエフォートを割くことができなかったことによる影響も否めない。次年度も、旅費などはコロナ禍の影響により不透明な要素が少なからずあるが、状況に応じて柔軟に対応することを想定している。
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