2019 Fiscal Year Research-status Report
International Migration and Subjective Well-being: Comparative Studies on Experiences of Asian nurses in Japan and in the UK
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19K03196
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Research Institution | J. F. Oberlin University |
Principal Investigator |
浅井 亜紀子 桜美林大学, リベラルアーツ学群, 教授 (10369457)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保田 真弓 関西大学, 総合情報学部, 教授 (20268329)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 国際移動 / フィリピン人 / インドネシア人 / 外国人看護師 / 外国人介護福祉士 / 異文化接触 / 英国 / 二国間経済連携協定 |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究目的は、国際移動するアジア系看護師の主観的ウェルビーイング(Subjective Well-being, SWB)の実態調査および理論検討を行うことであった。今年度の成果は、第一に二国間経済連携協定(EPA)で来日したインドネシア人看護師・介護福祉士の日本体験についての過去10年間の研究のまとめ、SWBの概念の重要性を明らかにしたこと、第二にフィリピン人看護師の英国での体験の聞き取りから職場におけるSWBの条件を明らかにしたこと、第三にEPAフィリピン人の日本体験の調査、フィリピンでの送り出しの現地調査を行ったことである。 SWBはもともとDiener(1984)が見出した概念で、「客観的」評価に対し、人生に対する個人の「主観的」な評価を表す。従来の文化接触の研究は、外国人のホスト国でのストレスと対処に焦点がおかれていたが、移動者を「外国人」としてみなす視点である。移動者の滞在長期化に伴うSWBに注目することは、彼らをホスト国と同様によりよい人生の希求者とみなす視点が多文化共生を考えていく上で重要である。 第二に、英国で働くフィリピン人看護師への聞き取り調査から、在英フィリピン人のSWBの高さは、母国に比べての給与の高さだけでなく、看護の専門性やキャリアラダーの発展可能性をポジティブにみている点、プライベートライフとのバランスがとれることへの満足があった。在日インドネシア人に比べ言語や宗教実践継続の困難も少ない。 第三に、フィリピン現地調査から、海外への医療人材流出に伴う国内の人材不足、また日本での受け入れ態勢への不満が見出された。フィリピン内での社会的位置、首都圏や地方、年代による就労機会の差に注目する必要がある。EPAに応募できるのは中上位のエリート層で、応募条件を満たせない地方における経済的困窮者とは異なる層であることに十分留意するべきである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は2018年9月から1年間在外研修で英国に滞在していたため、英国に住むフィリピン人看護師への聞き取りを行うことができた。フィリピン人看護師の英国体験と在日インドネシア人などとの比較については、日本国内での異文化コミュニケーション学会で発表を行った。 国内においては、EPAで来日したフィリピン人看護師・介護福祉士への聞き取りを行った。1陣から10陣まで来日しており、1~5陣までと6陣以降の新しい陣とでは、日本での就労に関する情報量が異なる。陣による来日動機や日本体験の違いについて今後も検討していく必要がある。 また、研究協力者のこれまでのフィリピンコミュニティとのネットワークを活用して、フィリピン現地において、EPA帰国者、研修生など移動者への聞き取りを行っただけでなく、日本語研修の実情、フィリピンの医療事情について調査をすることで、送り出しを促進する背景を理解することができた。フィリピン人看護師、介護士の来日動機とそれへの影響要因について検討をし、次年度での学会発表へとつなげる予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
国際移動におけるSWBについて、先行研究の論考などを参考に、理論的な検討を深めていく必要がある。SWBのヘドニック(快楽的)な側面を批判し、新たに「心理的ウェルビーイング」という概念を発展させ、人間の自己達成のあり方を、自律、自己成長、自己受容、人生目標、熟達、ポジティブな関係性の6領域を含めて発展させている研究もあるリフ(Ryff &Keyes, 1995)。こうした論考を参考にすることも重要である。さらに国の経済や雇用状況など社会的環境のSWBへの影響をみる上で、客観的ウェルビーイングとの関係も検討する必要がある。 来日しているフィリピン人への聞き取りを継続する。新型コロナウィルスの影響で、移動制限により、国内の病院や高齢者施設、また看護師・介護福祉士への対面での聞き取りが難しくなると予想される。本人たちに同意が得られれば、FacebookなどのSNSによる面接を実施する。フィリピン人帰国者に対する聞き取りも、同様に継続していく。 フィリピン現地への調査は、2019年度に訪問できなかったフィリピン政府の送り出し機関への聞き取り、病院や現地の看護師への聞き取りを含める。マニラを中心にした首都圏と、地方の状況を調査する。 EPAの経験者が増えるにつれ、日本とフィリピン間のループが誕生しており、ネットを通じて日本での仕事や生活情報が拡散し、日本とフィリピンの往来(入国、帰国、再入国・・)を促している。従って、4陣までと、それ以降の陣とでは、来日前の日本の情報の取入れ方も違っていると考えられる。フィリピン人独特のFacebook 利用などネット環境の変化とループ、それによるEPA体験の時間経過による変化について、今後検討する必要がある。
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Causes of Carryover |
2019年度、英国でのアジア系看護師への面接調査のためにNHSからの承諾を得るのに時間がかかり、調査対象地域をロンドンの病院に絞らざるを得なかった。 次年度は、外国人看護師、移動、主観的ウェルビーイングに関する書籍、論考の文献調査、国内外でのフィールドワークに力を入れる。
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Research Products
(4 results)