2021 Fiscal Year Research-status Report
ソーシャル・メディアは社会を分断するのか:態度の動態的理論とDSITからの検討
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19K03203
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
森尾 博昭 関西大学, 総合情報学部, 教授 (80361559)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | CMC / インターネット / 態度変容 / ソーシャル・メディア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、インターネットを通じて社会的影響を与え合う個人がどのようにして態度を変容させるか、またその結果、集団レベルでの集団極性化がどのように生じるかを明らかにすることである。本研究の特色は、ミクロレベルでの個人の情報処理とマクロレベルでの集団における群化、すなわちクリークの創発的生成による集団極性化とを結びつける点にある。集団レベルの枠組みとして用いるDSITは、個々人間の相互作用という微視的なメカニズムの検討と、集団全体の性質の変容という巨視的なメカニズムの解明を結ぶ理論である、という点で社会心理学において異質である。アメリカの社会心理学界のみならず、国際的にもDSITは多くの研究者の関心を集め、その後、理論的な精緻化や展開を試みた研究がいくつか見られるが、そのほとんどはコンピュータ・シミュレーションによる理論的な検討である。本研究では、調査的方法およびインターネットから入手可能なログデータを用いてDSITの実証を行うという点において、既存のDSITを扱う研究とは大きく異なっている。 2021年度は、ソーシャル・メディアにログデータを用いて、DSITの知見であるクリークの創発的生成と集団極性化が観察されるかどうかを検討するため、2020年度に準備を行ったプロセスを元に、マイクロブログからのデータ収集を開始した。また、個人が持つ複雑な態度の構造をダイナミックに測定し、その動態力学的な特徴を抽出するための実験ツールを最新のコンピュータで稼働させるため、オープン・プラットフォーム上で実装するための環境構築を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度から構築を開始したマイクロブログのデータ収集システムを試験運用することによって、データ収集を開始した。Twitter社はAPIを用いたデータの収集に際して申請手続きと認可が必要となり、手続きに試行錯誤と時間を必要とした。データ分析のためのプログラミング言語であるR言語のパッケージを用いた仕組みを用いる場合は、取得することのできる件数や日数、時間に制約があるため、これらの制約下で実証的な研究を行うために偏りのないデータを集めることができるか、また一般化可能な知見が得られるのかどうか、検討を行った。2021年度においても、研究協力者の所在地である北米や欧州には新型コロナウイルスのために自由に行き来が行える環境になかったため、研究打ち合わせを見合わせた。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度では、新型コロナウイルスの蔓延という社会的状況化において、ワクチン接種に否定的な意見を持つユーザーの意見を収集するとともに、そのようなユーザーが様々な社会的態度がどのような特徴を持つのかを検討することを計画している。また、ロシアによるウクライナ侵略が勃発し、「情報戦」と称したデマの流布によるプロパガンダがロシア政府により積極的に行われている。反ワクチンの信念とロシアのプロパガンダの支持の関連性も検討したい。新型コロナウイルスとワクチン、ウクライナ侵略という一見関連性のない社会的事象に対して、支持者が重なっている、すなわち見掛け上の相関関係が生じているという研究報告が行われているので、このような知見を元に、DSITによる予測をさらに進め、ネットワークの共通化による影響がみられるかどうかも検討を加えていく。
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Causes of Carryover |
2020年度に予定していた研究補助者によるデータ収集システムの環境構築が2021年度へと延期せざるを得なかったため、研究計画が順延となった。また2021年度においても、新型コロナウイルスの流行が継続していたため、対面での研究打ち合わせは大きく制限されており、また打ち合わせを行う研究補助者にとってオンラインでのコミュニケーション・ツールは、対面での打ち合わせを完全に代替するものではなかった。2022年度は過年度において予定されていた、個人レベルでの態度測定ツールを作成し、予備実験を経て本実験へと進める。また、集団レベルでのSNSのデータ収集システムを実働させるとともに、必要に応じてシステムの改善を行う。
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