2020 Fiscal Year Research-status Report
高齢期の社会関係の喪失と獲得がもたらす心理社会的効用モデルの構築
Project/Area Number |
19K03206
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菅原 育子 東京大学, 未来ビジョン研究センター, 特任講師 (10509821)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 社会関係 / 主観的well-being / 高齢者 / 獲得と喪失 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、高齢者における社会関係の喪失と獲得のプロセスモデルを構築することを目的とする。 2年目にあたる本年度は、1年目からの継続で質的インタビュー調査とその分析を行い、学会発表と論文執筆を行う(研究1)とともに、仮説モデルの構築とその検証のための量的調査(研究2)を実施する計画だった。しかし、年度当初からのCOVID-19の影響が年度いっぱい継続したことにより、大幅な計画変更となった。 当初想定していた対面インタビューが実施不可になったことから、オンライン会議システムを用いたインタビューの実施可能性を検討し、計画修正を行った。地域ボランティア活動参加者を対象としたインタビューについては、活動運営会議にオンライン会議システムを導入する支援を4月から開始し、活動実施者がオンライン会議システムを用いることに慣れてきた時点でインタビューを打診した。ただし実施方法を個別インタビューからグループ・インタビューに変更し、2件(参加者計11名)実施した。また、SNS サービスを利用した交流をしている高齢者を対象としたインタビューは秋以降開始し、9件のインタビューを完了した。オンライン会議システムによるインタビューが実施困難な高齢者へのインタビューは、年度内の実施は難しいと判断した。ただしインタビュー候補者との関係を維持することを目的に、手紙に返信葉書を同封して送付した。 COVID-19は、奇しくも、多くの高齢者の社会関係に大きな影響をもたらしたと想定される。その経験を研究に積極的に生かすため、インタビュー内容を変更し、COVID-19が家族、友人、近隣らとの関係に与えた影響についての質問を加えた。 このように、インタビューの実施時期、方法、対象者、内容を大幅に変更し、年度末時点で研究1の質的調査の実施まで終了した。調査結果の分析、まとめ、そして研究2については翌年度に繰り越した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
研究1(質的調査)の実施において、新型コロナウイルス感染症の流行拡大による社会的接触や社会的活動の制限が大きな影響をもたらした。対面インタビューが可能になった時点で計画どおりに研究を再開する予定だったが、COVID-19の影響が年度いっぱい長引いたため、調査計画を大幅に変更し、実施時期、対象者、インタビュー方法を変更して、年度半ばより改めて研究1に着手した。その結果、2件(11名)のグループインタビューと9件の個別インタビューを実施し研究1を完了することができた。 感染症を避けるための社会的交流の制限は、社会関係の獲得と喪失という本研究テーマそのものに多大なる影響を与えている。また、インタビューの実施方法をオンラインインタビューに切り替えたことから、ICTの利用経験がインタビュー対象者の選定に大きく影響することになった。この点については、来年度対面インタビューないしはICT利用経験に影響されないインタビュー方法が可能になった場合に、ICT利用経験の低い人を対象とした質的調査を追加するなど、さらに計画変更をする可能性がある。 コロナウイルス感染症拡大に伴う社会的交流の制限という事態そのものは、高齢者の社会関係の獲得と喪失を研究する上で無視できないものである。外出制限や接触機会の制限がどのように高齢者の社会関係に変化をもたらしたのか、という新たな研究課題を積極的に本研究に取り入れて、新たな研究課題にも対応できるようにインタビューの対象者、方法、内容を変更したことは、研究をより豊かにする方向での変更であったと考えている。今後はCOVID-19が高齢者の社会関係や社会参加行動にもたらした影響についての分析や考察も含めて、研究テーマを広げて研究継続する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
研究1(質的調査)の実施まで完了したことから、その分析と学会等での発表を、次年度の前半で実施する。なお、オンライン会議システムを利用していない人(主に80歳以上の方々)に対するインタビューは実施していない状況であることから、その実施可能性については継続して検討する。厳重な感染対策をとった上での対面インタビュー、電話や手紙でのインタビュー、もしくはICT技術を必要としない形でオンラインインタビューを可能にする手段の導入などを検討している。 研究1の結果をもとに、研究2(量的調査)の計画を秋を目処に具体化し、年内のデータ収集を目指す。量的調査の実施方法についても、オンラインでの収集、郵送での収集など複数の方法を同時並行で検討し、対象者が安心して参加可能な方法の中で、最大限、得られるデータの代表性を確保することを目指す。偏りが否めない場合にも、傾向スコア分析法など、統計的な修正・対応の方法について検討したい。
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Causes of Carryover |
当初当該年度に実施予定だった研究2、すなわち量的なアンケート調査の実施を翌年実施としたため、その実施に必要な費用(物品費、人件費・謝金、その他)を繰り越した。繰り越し額は、アンケートの実施を予定している翌年秋から冬にかけての使用を予定している。 また、研究成果の発表と関連する最新研究情報収集のために国内外の学会への参加を計画していたが、コロナウイルス感染症の影響で海外渡航が困難であり、国内学会もオンライン開催となった。このことで旅費が大幅に未使用になっている。この状況は来年度も継続すると想定されるが、一方でインタビューの実施や学会での発表などが全てオンラインでの実施となったことから、オンラインでの活動をよりスムーズにできるようにノートパソコンと周辺機器などの環境整備(物品費)にかえて使用することを計画している。
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