2020 Fiscal Year Research-status Report
Effects of blending reasons on social judgments
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19K03208
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
山田 歩 滋賀県立大学, 人間文化学部, 准教授 (00406878)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 理由のブレンド / 社会的判断 / デフォルト / リバタリアン・パターナリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は,理由のブレンドが社会的判断に与える効果について検討することを目的とする。単独では判断や決定を促す理由であっても,それらが複数利用できる条件下では「理由のブレンド」が起こり,決定を後押しする力を全体として弱める可能性があることを検証する。特に「質」と「強さ」に焦点をあて,「質の異なる理由のブレンド」および「強さの異なる理由のブレンド」が社会的判断,及びに消費者や生活者に向けたコミュニケーションに及ぼす影響を実験室実験およびにフィールド実験を通して明らかにする。 2020年度は,特に「質の異なる理由のブレンド」に関する理論的研究と実証研究の実験パラダイムの構築を大きな目標として定めた。この目標に従い,「選択の自由(リバタリアニズム)」と「自由の規制による厚生改善(パターナリズム)」という二つの理念のブレンド(リバタリアン・パターナリズム)が行為者の決定に与える効果についての理論的研究と実証研究を進めた。 実験としては,質問内容は同じだが回答形式で回答が誘導される「デフォルト効果」現象を研究題材とした。この研究パラダイムとして学問的雛形となっている「臓器移植に関する意識調査」を採用した。デフォルトが異なる質問をいくつか用意し,調査参加者に回答を依頼した。調査参加者には,回答形式が操作された臓器移植に関する質問について回答した。また,回答形式の影響力についてどれほど自覚しているか,またその影響を排除した回答ができるか確認を受けた。 その結果,意思決定者は「選択の自由」が保証されても「自由の規制による厚生改善」の影響から逃れることができないことが確認された。この知見は,現在様々な生活領域に浸透しつつあるリバタリアン・パターナリズム的な選択介入において選択の自由が保証されているという表向きの説明が成立しないことを示唆し、法哲学の論議や政府の行動規制に再考を促す学術的知見となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2019年から現在に至るまで,いくつかの想定しない社会的混乱や制度変更があった。たとえば,当初「研究申請書」では,「理由のブレンド」効果を検証する実験題材として,「利他的理由」と「利己的理由」がブレンドされる「ふるさと納税」などの寄付行為に関する意思決定状況を典型的な場面として想定していた。しかし,2019年度にふるさと納税の税制の変更があるなどして,社会的な関心が高まり,調査実施が困難になった。そのため,最善とは言えないが,急遽,上記の「リバタリアン・パターナリズム」における法概念のブレンドに焦点にあてた研究にシフトした経緯がある。一定の成果が得られたといえるが,「質の異なる理由のブレンド」効果研究として狙いどころがややズレてしまった部分もあるため,よりよい実験素材を今後探す必要がある。 また新型コロナウィルス感染拡大に伴い現在に至るまで,調査や実験が実施しにくい状況が続いている。ウェブアンケートなどに切り替えて対応を進めているが、当初予算では対応しきれない部分もある。状況が改善されることを願っている。
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Strategy for Future Research Activity |
質の異なる理由のブレンド 「リバタリアニズムとパターナリズムのブレンド」に関する研究について、2019年度は大学生を対象とした小規模な調査で検証し、その成果をもとに、2020年度はウェブアンケート調査会社を通して一般成人を対象に大規模調査した。2021年度は、これらの成果をもとに開発した選択課題を用いて、よりリアルな状況にて研究仮説を検証する。また,この「リバタリアン・パターナリズム」に関する研究とは別に,意思決定者にとってまさに理由が意識される状況下における認知バイアスについての検証を進める。具体的には「利他的理由」と「利己的理由」の組み合わせを操作し,それらのブレンドが「ふるさと納税」などの寄付行為に与える効果を検証する。また、SNSにおける広告出稿によってクリック率を比較するフィールド実験の準備を進める。 強さの異なる理由のブレンド 「魅力に優れる店舗で使えるプリペイドカード」と「魅力で劣る店舗で使えるプリペイドカード」と「そのどちらでも使えるプリペイドカード」は,経済合理的には3番目のカードが全ての利益が得られるため,最大の効用が感じられるはずである。しかし本研究計画では,感情的な価値が加算ではなく平均されることで,3番めの選択肢の魅力は1番目と2番目の選択肢の魅力の中間におさまると予想する。この仮説を検証する。
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Causes of Carryover |
「ふるさと納税」における寄付行為(動機)を、本研究仮説を検証する題材およびにフィールド実験の場として考えていたが(研究申請書にて記述)、研究が始まったおりから、政権および総務省と自治体との係争がつづき、社会的関心が急速に高まってしまったため、この話題について調査をおこなうことが困難になった。そのため、別の行為(動機)に焦点を当てた調査パラダイムを構築しなおしたが、今度は、タイミングが悪いことに、コロナ感染が発生・拡大したことにより、研究活動に大きな制限がかかることになった。ウェブ調査で置き換えることができるものについては、調査パラダイムを変更するなどして対応しているところではあるが、調査対象や調査場所を確保することなど対応が難しい点もおおく、全体的に計画が遅れているのが現状である。研究申請時は3年計画であったが、現時点では1年程度延長して当初案を完遂するつもりである。 すでに述べたように、ウェブ調査などで置き換えることができるものは、置き換えつつ調査をすすめているが、対面調査、インタビューなどが必要なものもあり、それらは社会情勢を見ながら判断していくことになる。2020年度に予定していた調査研究,研究打ち合わせ,研究発表が中止になったことで生じた繰り越した予算は2021年度の調査費用として執行する予定である。
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