2019 Fiscal Year Research-status Report
Is Epistemic Curiosity Elicited by Proximal Knowledge ?
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19K03248
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Research Institution | Nakamura Gakuen College |
Principal Investigator |
野上 俊一 中村学園大学, 教育学部, 准教授 (30432826)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 知的好奇心 / 最近接知識獲得モデル / ズレ低減モデル / ハイブリッドモデル / 知識量 / 興味 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は知的好奇心の生起過程について,認知的葛藤を解消しようとする際に生じるとする「ズレ低減モデル」と認知的葛藤を必要とせず自らの知識を拡大し構造化しようとするために新情報を取り入れようとする際に生じるとする「最近接知識獲得モデル」の妥当性を実証的に検証し,知的好奇心の生起過程に関する知見を精緻化することが目的である。 令和元年度は検証対象となる知的好奇心の生起における最近接知識獲得モデルの作成と洗練,および予備調査の実施を計画した。モデルの作成にあたっては,知的好奇心や認知欲求に関する先行研究のレビューを行い,新たに対象に対する興味を変数に組み込んだモデルの作成を試みた。この変数を組み込んだ理由は,本研究が教育的な介入を見据えた基礎的研究であり,主体的な学びという背景の中で教育臨床場面において学習者の興味や認知欲求に焦点を当てた研究が行われており,それらの研究知見の活用が期待できるからである。 令和元年度では2つの予備調査を実施した。1つは小学生児童を対象とした理科学習における知識と興味や認知欲求との関連について質問紙を用いて調査した(小野・石田・野上, 2019)。その結果,既習内容に対する探求的な興味よりも未習内容に対する新規性の追求の興味の方が高いことが示された。この結果は本研究で検証しようとしている「最近接知識獲得モデル」ではなく「ズレ低減モデル」から予測されるものだった。もう1つは,大学生を対象に意味を生成しやすい風景画と生成しにくい抽象画に対してパーソナリティ変数(知的好奇心,認知欲求)の違いによって鑑賞の仕方にどのような差があるかを調査した(Nogami, 未発表)。その結果,パーソナリティ変数による系統的な違いは示されず,抽象画よりも風景画に対しての言語的な表現が示され,注視時間も長い傾向が示された。この結果は「最近接知識獲得モデル」からの予測に一致した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ほぼ当初計画通りに進行している。本研究は知的好奇心の生起過程について,新たに「最近接知識獲得モデル」を生成し,その妥当性を実証的に検証することが目的である。その中核となる「最近接知識獲得モデル」の洗練化するために,当初計画にはなかったが,興味研究(e.g., Renninger & Hidi, 2011)や精緻化見込みモデル(Petty & Cacioppo, 1986)の知見を組み込むためのレビューや研究整理を行った。これらの研究を含めて予備調査を2件実施しており,次年度の本調査における検討点の明確化やモデルを再吟味する点を捕捉することができている。 さらに,本研究の成果の一般化可能性の吟味のため,そして研究成果の教育臨床への応用可能性の吟味のために,本研究の中核概念である知識量と好奇心の関係が対人関係においても表れるか否かを探索的に検討した(野上,2019)。その結果,既知の人物(人物に対する知識量が多い)に対する関心が未知の人物のそれよりも高いことが示された。この結果は主体的な学びにおける対話的な学習状況の点から議論した。加えて,本研究が注目する知識量と好奇心の関係が領域普遍的である可能性も示された。 大学生を対象とした予備実験の結果は2020年7月にICP2020(International Congress of Psychology, 2020, Czech)で発表する予定であったが,COVID19により2021年に順延となった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和元年度の実績を踏まえて,当初計画通りに大学生を対象とした実験と質問紙調査を行う。 大学生を対象とした実験は,令和元年度の予備調査の追試と同じ対象者に対して知識量を操作する新実験の2つを実施する。追試では鑑賞中の「おたずね(問い)」に注目して,知的好奇心の表れを検討していく。意味を生じやすく分かりやすい風景画と意味を生じにくく分かりにくい抽象画に対して,どのような「おたずね(問い)」が生まれてくるのか,その「おたずね(問い)」に内容的な差があるのか否か,差があるとすれば個人的な特性と関連があるのかを検討する。 新実験では,参加者に幾つかの新情報を学習させる際に,それぞれの情報に関連する知識を事前にどれだけ与えるかによって知識量を操作し,関連知識がほとんどない情報よりも一定程度ある情報を選好するか否かを学習時の視線計測と情報アクセス量,内省報告によって検証する。視線計測と情報アクセス量,内省報告を分析対象にすることによって,知的好奇心の生起過程を意識レベルと潜在意識レベルから検討することが可能である。知識量だけでなく,人格特性としての知的好奇心(拡散的vs特殊的)や認知的特性(実行機能),さらには発達段階の違いによっても新情報の学習の仕方は異なることが予想され,それらの要因の交互作用についても分析する。 質問紙調査は,大学生を対象に,人格特性としての知的好奇心や不確定志向性や曖昧さ耐性といった変数が,知識量の異なる領域の学習内容への興味関心,それらの領域での学習行動や探索行動とどのように関係しているかを複数回の質問紙調査で検討する。質問紙では知識量の操作はできないため,現在や高校生の頃を想起させる回顧的評定を用いる。
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Causes of Carryover |
(理由) 関連知識がほとんどない情報よりも一定程度ある情報を選好するか否かを学習時の視線計測と情報アクセス量,内省報告によって実験的に検証するための機器として選定していたJINS MEME ESRセットの販売が中止になったため。 (使用計画) 代替機の選定もしくはレンタル機器の利用が可能かの検討を行い予算執行する。当初予算案よりも高額になる場合は,実験デザインの修正と機器の組み合わせにより当初目的を果たす環境を作るために予算内で調整して執行する。
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