2021 Fiscal Year Research-status Report
東日本大震災の長期的影響としての子どもの攻撃性に対する介入プログラムの構築
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19K03261
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Research Institution | Miyagi Gakuin Women's University |
Principal Investigator |
足立 智昭 宮城学院女子大学, 教育学部, 教授 (30184188)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
平野 幹雄 東北学院大学, 教養学部, 教授 (20364432)
柴田 理瑛 東北福祉大学, 総合福祉学部, 講師 (20589775)
大橋 良枝 聖学院大学, 心理福祉学部, 教授 (50787702)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 東日本大震災 / 気になる子ども / 攻撃性 / 衝動性 / 愛着 / 放課後児童クラブ |
Outline of Annual Research Achievements |
3年目の研究は、2年目の研究によって検証された介入プログラムを小学校などにおいても実施し、介入プログラムの応用性を検証することを目的とした。しかし、2021年度もコロナ禍にあり、学校現場での研究は困難であった。そこで、同じ児童が生活をしている放課後児童クラブは、学校現場よりも小規模であり、感染防止に努めながら研究を行うことが可能であることから、放課後児童クラブのにおいて研究を進めることとした。しかし、学童期の子どもたちを対象とした場合、幼児期とは異なる「気になる行動」をアセスメントするツールが新たに必要となった。そのため、我々が1年目に作成した幼児を対象とする「気になる子どもの行動チェックリスト」(Behavioral Scale for Difficult Child after Disasters: BSDCD)(柴田他2019)をベースに新たなチェックリストを作成し、その妥当性の検証を行った。その結果、幼児を対象とした先行研究では衝動性、多動性、共感性、愛着不全性、生活リズム不安定性の 5因子であった因子構造が、衝動性、生活リズム不安定性、愛着不全性の 3 因子となった。 回答者に発達特性(気になる/気にならない)を尋ね、BSDCD 尺度得点とその下位尺度得点、性別、 学年を説明変数とする二項ロジスティック回帰分析を行ったところ、BSDCD 尺度、衝動性尺度、愛着 不全性尺度に有意なオッズ比が認められた。以上の結果は、東日本大震災後、中長期に現れた学童期の気になる子どもという印象について、特に攻撃的言動を含む衝動性と愛着不全性といった要因が強く関連していることが示された。したがって、これら児童の支援においては、保護者の協力が必要となるが、保護者が我が子の行動特徴を客観的に理解するためにも、このチェックリストの結果の理由が有効であると推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究は、3つのステップから構成される。それぞれのステップで何をどのように明らかにするかは以下の通りである。 研究1 「原理モデルの構築」複数事例研究(1年目):1)研究代表者と研究分担者は、各々の現場において研究許可の得られた事例をデータ化する。事例は、 攻撃性の高い子どもとその対応に困難性を感じた保育士の事例である。それらの事例とEMADISに基づき、仮説的モデルを作成する。2)仮説的モデルによって,問題の発生状況から問題の解消までのプロセスが描けるかどうか、すべての事例に対し検討し、モデルの修正加筆を行う。3)2)において構成された 仮説的モデルの内容的・構成概念的妥当性を、研究代表者と研究分担者が専門とする発達臨床心理学理論、精神分析理論に基づき検討する。 研究2 原理モデルによる介入プログラムの開発及び効果検証(2年目):1によって得られた原理モデルに基づき、子ども、家庭、保育士に対する介入プログラムを開発、実施し、その効果を検証する。 研究3 原理モデルによる介入プログラムの開発及び効果検証(3年目):2によって検証された介入プログラムを、宮城県内の小学校などでも実施し、介入プログラムの応用性を検証する。 しかし、2021年度も新型コロナウイルス感染症拡大により、教育現場に研究者が入りにくい状況が続いており、宮城県内の小学校での介入プログラムの検証は困難がであった。そのため、2021年度は、同じ児童が生活をしている放課後児童クラブは、学校現場よりも小規模であり、感染防止に努めながら研究を行うことが可能であることから、放課後児童クラブにおいて研究を進めた。しかし、放課後児童クラブにおいても、断続的に感染が生じており、当初の予定より研究遂行に遅れが生じた。 加えて研究代表者の家族介護と看取りの期間が必要となり、研究全般の進行が遅れた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究を計画した際は、保育士や教師に高い攻撃性を示す幼児・児童に対して、我々が直接現場に赴き、介入プログラムを開発・検証することを想定していた。しかし、新型コロナウイルス感染症拡大により、我々が現場に入ることが困難となっているため、保育士や教師自身が、幼児・児童の攻撃性の特徴やその背景要因をアセスメントできるチェックリスト、またこれらの攻撃性に対する自らの対応や組織の対応を自己評価するチェックリストの作成が有効となることが考えられた。前者に関しては、幼児対象のチェックリストはすでに作成していたことから、その知見を活かして児童の攻撃性についてもアセスメントするチェックリストを2021年度に試作した。これまでの調査から、児童が放課後児童クラブの指導員に向ける攻撃性の背景には、愛着の不安定さがあることが示唆されているが、その愛着の不安定さの程度やその原因は多様であり、当初の想定を超える多様な介入プログラムが必要であることが明らかとなってきた。 また、本年度までの事例的研究において、幼児・児童の攻撃性の対象となった保育士や指導員の特性も重要であることが示唆された。たとえば、自らの生育歴において虐待を経験している保育士においては、幼児の攻撃性の対象となった際に精神的に脆弱となり休職に追い込まれるケースも見られた。したがって、攻撃性を示す幼児・児童への対応において、適切なコーピングを行っているのかを査定することも今後の課題である。 なお、本研究は、保育所、放課後児童クラブの現場だけでなく、小学校などでもこのプログラムを適用する予定である。東日本大震災の被災地である宮城県では、小学校における暴力行為が、2011年年度は約100件であったのに対して、2020年度はコロナ感染症拡大による休校期間があったにも関わらず約1,200件となっており、その数は12倍以上となっているからである。
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Causes of Carryover |
2021年度は本申請課題における研究も3年目となり、国内外の学会での研究成果の発表を予定していた。しかし、いずれもオンライン等での発表となり、旅費の支出が生じなかった。また、保育、教育現場への出張も現場から断られることが多く、調査旅費の支出もなかった。次年度もそのような状況が継続すると予想されることから、保育現場や教育現場で使用できるチェックリストや介入プログラムを作成する予定である。その研究のため、現場で使用できるパソコン1台の購入を予定している。また、質問紙による研究のための人件費、その他(郵送費)の費目の支出を予定している。さらに、2022年3月16日に起きた福島沖地震により、研究代表者、分担者の大学においても震度6弱の揺れとなり、使用していたパソコンが破損した。そのためパソコン1台の購入を予定している。
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