2020 Fiscal Year Research-status Report
音楽科におけるマルチモーダルな教室談話を介した学習の変容過程
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19K03270
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
市川 恵 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 講師(任期付) (70773307)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 教室談話 / 音楽科授業研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,Communicative Musicality理論を援用し,小学校音楽科において教師-子ども間および子ども―子ども間の社会的相互作用によって生成されるマルチモーダルな教室談話が,子どもの学びをいかに促進させているかを動画分析および音声解析の手法を用いて明らかにすることである。 2020年度はコロナ禍によりフィールドワークの継続が困難であったため,communicative musicality理論における方法論を整理し,その応用可能性を検討しながら既収集データの相互行為分析を重点的に遂行した。 具体的には,既収集データ及び一部の新しいデータから音楽づくり・創作の授業におけるグループ活動を中心に,教師及び子どもの発話プロコトルの作成,動画分析を経て,微視的視点で子どもの創作プロセスを追った。その際,「発話」「音の発信」「表情・身振り」「視線の動き」の4点をマルチモーダルな相互行為の観点と設定し,動画解析ソフトELANを用いて一人ずつ網羅的かつ詳細に記述し可視化することを試みた。 その結果,アイディアの共有過程においては他者に向けた音の発信を中心として,発話と身振りが共起するなど,いくつかのモダリティが同時並行的に組み合わされながら,双方向的なやり取りのなかで合意形成が繰り返されていた。そして,音楽授業における教室談話の構造は多層的かつ多重的であることが明らかとなった。また,グループ活動内での子どもの言語活動は,既習事項や学習経験との参照をする際に活発に起きており,音での直接的なコミュニケーションは,言語を介することによってより学習として深まっていく可能性が示唆された。 これらの分析を通して,音楽授業における教室談話の特質や構造の一端を描出することができた。さらに,動画解析ソフトELANのアノテーションを用いた分析は,音楽科授業研究の一方法論として有効であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」に記した通り,2020年度は新たなデータ収集が困難であったため,communicative musicality理論における方法論を整理し,その応用可能性を検討しながら既収集データのより精緻な相互行為分析を重点的に遂行した。ここで得られた「教室談話に着目した音楽科の学習過程」ならびに「相互行為の可視化」に関する知見は,関連学会での研究発表,書籍の執筆,学会誌へ投稿を通じて積極的に発信してきた。 一方,昨年度に引き続き小学校および中学校での継続的なフィールドワークは,コロナ禍によりほぼ中断してしまったため,歌唱に関するデータの収集が遅れている。また,研究協力者との対面を要する高度な音声解析作業も困難なため,教師および子どもの発話におけるプロソディに着目した分析への着手が遅れている。 今後はコロナ禍の影響により,新たなデータの入手が困難な可能性や分析方法を再検討せざるを得ない可能性も考えられるが,動画解析ソフトELANを用いた相互行為分析に関しては大きな進展が見られた。やや遅れが見られる部分もある一方で計画以上の進展もあることから,全体として当該年度の目標はおおむね達成したと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画2年目であった2020年度は,動画解析ソフトELANのアノテーションを用いた分析から音楽授業における教室談話の特質や構造の一端を描出することができた。 「現在までの進捗状況」に記した通り,今後はコロナ禍の影響により,新たなデータの入手が困難な可能性や分析方法を再検討せざるを得ない可能性も考えられるが,動画解析ソフトELANを用いた相互行為分析に関しては大きな進展が見られたため,音楽科授業におけるマルチモーダルな教室談話の分析枠組みが整いつつある。 こうした状況を踏まえ,最終年度である2021年度は,子どもの主体的な音楽への取り組みを支援するための教室談話の枠組みの提起と同時に音楽科授業研究方法モデルの提案を目指す。必要に応じて,新たなデータ収集と分析に着手し,研究協力者らと意見交換や協議を行いながら理論化を図る予定である。また,昨年度に引き続き,学会における口頭発表,論文発表において,その成果を発信することに努める。
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Research Products
(10 results)