2020 Fiscal Year Research-status Report
トラウマ筆記による心身健康・認知機能増進:マインドフルネスと感情神経科学的接近
Project/Area Number |
19K03285
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
佐藤 健二 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (10318818)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | トラウマ / 筆記 / 構造化筆記 / 外傷後ストレス反応 / 心的外傷後成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年,心的外傷(トラウマ)に関する筆記が,心的外傷後ストレス反応(PTSR)などの心身の健康やワーキングメモリ(WM)など認知機能に関わる指標の改善の他にも,トラウマ的出来事への意味づけ,そして心的外傷後成長(PTG)を促進させることが報告されている。しかし,通常のトラウマ筆記より効果が期待される構造化筆記による検討は行われていない。そこで,本研究では,マインドフルネスや感情神経科学の観点から,トラウマへの距離化,認知的再体制化を促すよう構造化された筆記の手続きを考案し, それがPTSRや認知機能の改善に加え,意味づけやPTGの増大に及ぼす影響,どのような筆記内容が,心身の健康・認知機能と関連するのかを検討した。 まず,構造化筆記の効果を検討するため,トラウマ体験者を構造化筆記群と中性話題筆記群の2群に振り分け,3回の筆記による介入を行い,即時的なポジティブ/ネガティブ情動,出来事への意味づけ,PTG,PTSR, WM容量に対する改善効果を検討した。その結果,構造化筆記群のみにおいてポジティブ情動の増加,PTSR尺度の下位尺度「回避」の低減,意味づけ,PTGの増加が見られた。また,両群においてWM容量の増加が見られ,筆記による一定の効果が確認された。 さらに,構造化筆記群の筆記内容から認知処理に関する語を抽出し,語が出現した文脈を踏まえて,語数とPTSRなど各効果変数の関連が検討された。その結果,認知処理語の増加によって意味づけ及びWM容量が増加すること, 自己指示語の増加によって,PTSRが低減することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
全体的には,おおよそ計画に即して進んでいる。マインドフルネスの観点から,構造化筆記が心身の健康および認知機能に及ぼす影響,また,どのような筆記内容が心身の健康および認知機能と関連しているのかが明らかにされてきているからである。ただ,感情神経科学的観点からの検討に必要な生理機器の選定と購入が遅れている。研究代表者が新たに2つの組織(臨床心理学専攻,総合相談部門)の長となり,その業務の増大,コロナ禍における遠隔授業ならびにクラスター発生への対応に伴い,当該分野の専門家へのヒアリングは実施できなかったためである。こうした点から,「やや遅れている」と評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず,当該分野(感情神経科学)の専門家へのヒアリングを実施して,遅延している,背外側前頭皮質の血流量を測定する生理機器の選定と購入を行う。次に,心身の健康および認知機能の増進に寄与するトラウマ筆記の教示文の開発に関連する研究を立案・実施する。どのような言葉の増大が心身健康および認知機能の増大と関連しているのかを明らかにする。この研究の実施によって,心身の健康・認知機能の増大に寄与するトラウマ筆記法を開発し,統制条件と比較することによって,その効果を検証する。
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Causes of Carryover |
新たな役職への就任およびコロナ禍による業務多忙につき,必要機器の選定・購入が遅れ,当初の研究計画の推進が遅延し,次年度使用額が生じた(理由)。遅延していた必要機器の選定・購入を行い,令和3年度分と併せて遅延していた研究計画を推進する(使用計画)
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