2022 Fiscal Year Annual Research Report
画家、彫刻家、音楽家、舞踊家の「自我のための退行」の有り様の違いについて
Project/Area Number |
19K03338
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
伊藤 俊樹 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (40288759)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 自我のための退行 / 芸術家 / ロールシャッハ法 / 創造性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ジャンルの異なる芸術家の「自我のための退行」の有り様がどのように違うかを検討するものである。「自我のための退行」とは、自らコントールしながら、現実的論理的な思考プロセスから、夢に見られるような非現実的非論理的思考プロセスへ入っていくことであり、芸術創造の際に重要な心的機能であるとされている。本研究では、ロールシャッハ法を用いて、芸術家3群の「自我のための退行」の有り様の違いを探るものである。本研究の目的は従来検討されていなかったジャンルの異なる芸術家の「自我のための退行」の有り様がどのように違うかを検討することである。彫刻家は画家と異なり、作品が三次元である点、制作により身体を使う点、素材と身体的接触を行う点で画家と大きく異なる。また身体表現者は、具体的な作品を作らず身体で表現することで制作する時間的芸術である。このように制作プロセスも作品の形態も違う芸術のジャンルでは、当然、「自我のための退行」の有り様も異なるはずである。本研究ではその違いを探索的に研究することを目的とする。 被験者は、抽象彫刻家10名、コンテンポラリーダンサー10名、舞台美術家10名の3群であった。ロールシャッハ法をKlopferに従って施行し、その結果をHolt(1977)の「自我のための退行」を測定するスコアリングシステムに従って分析した。 抽象彫刻家は、舞台美術家と比べて、色彩の象徴的使用、象徴的使用の合計、一次的過程形式の合計において、多くの反応を産出した。また、コンテンポラリーダンサーは、舞台美術家よりも、イメージの合成においてより多くの反応を産出した。 舞台美術家は脚本や演出による制約を受けるために、思うままに退行することができず、現実の制約を受けない抽象彫刻家やコンテンポラリーダンサーはより、自由に「自我のための退行」が可能であったと考えられる。
|