2020 Fiscal Year Research-status Report
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19K03340
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
林 光緒 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 教授 (00238130)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 笑い / 入眠困難 / 認知的覚醒 / 睡眠ポリグラフ記録 / 夜間睡眠 |
Outline of Annual Research Achievements |
入眠困難においては,生理的覚醒だけでなく認知的覚醒が強く関与していることが指摘されている。不眠の認知行動療法では、このような入眠時の過覚醒を低減するための方法として筋弛緩法を用いたリラクゼーションが用いられている。一方、笑っている最中は交感神経系活動が高まるが、その後は交感神経系活動が低下し、リラックス効果が生じることが報告されている。そこで、就床前の笑いによって活動的快を高めることが入眠時の過覚醒を低減し、入眠困難の改善に有用かどうかを検討した。 【方法】普段の入眠潜時が15~60分(平均35.0±13.7分)の入眠困難傾向を示す大学生11名 (男性3名,女性8名,平均19.9 ± 1.2歳)を対象として3夜連続で夜間睡眠ポリグラフ記録を実施した。1夜目は順応夜とし、2夜目と3夜目の就床1時間前に日本人コメディアンのビデオ(笑い条件)か、テレビのドキュメンタリー番組のビデオ(中性条件)をそれぞれ30分間視聴してもらった。本研究は学内の研究倫理委員会の承認を得たうえで実施し、参加者には事前に実験内容について十分な説明を行った後、書面にて実験参加の同意を得た。 【結果】ビデオ視聴後の主観的評価では、笑い条件の方が中性条件より笑いと活動的快が高く(ps<.01),状態不安が低かった(p<.05)。夜間睡眠については、笑いによって入眠潜時が17分短くなるとともに(14.1±5.3分 vs. 31.2±14.7分; p=.065),レム睡眠が延長した(74.4±6.2分 vs. 52.7±8.0分; p<.01)。 【考察】30分間の笑いによって活動的快が高まるばかりでなく、就床前の不安が低減し,入眠潜時が17分短くなった。これらの結果から、就床前の笑いは入眠時の過覚醒の低減に効果的であり、入眠困難の改善に有用であることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、実験参加者は15名を予定していたが、実際には11名にとどまった。しかし、コロナウイルス感染拡大により実験実施自体が危ぶまれたなかで、10名以上の参加者を対象とした実験を実施することができ、実験結果についても仮説通りの結果を得ることができた。また、コロナウイルス感染予防対策を行いながらの実験実施のノウハウを得ることもできた。これらのことから、おおむね一定の成果が得られたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度は笑いを用いて、就床前の「活動的快」による夜間睡眠への影響を調べたが、2021年度は、「非活動的快」による効果を検討する。入眠期にはしばしばあたかも夢のような映像を伴う入眠時心像が現れる。入眠時心像が生じたときと生じなかったときで比較すると、音刺激に対する脳反応(事象関連電位)は、入眠時心像が生じたときの方が小さいことから、入眠時心像は認知的・生理的覚醒を低下させる作用を持つことが示唆される。これらのことから、ありありとしたリラックスイメージは入眠の進行を促進することが予想される。 そこで、入眠困難傾向にある大学生15名を対象として、就床時にありありとしたリラックスイメージを浮かべてもらうイメージ条件と、普段通りのことを考えながら眠ってもらう中性条件の2条件を設置する。実験は3夜連続とし、第1夜は順応夜、第2・3夜はイメージ条件ないし中性条件を実施し、条件の実施順序は参加者間でランダムとする。イメージ条件では、夜間睡眠記録を実施する前に、十分なイメージトレーニングを行っておく。リラックスイメージによる夜間睡眠に及ぼす影響を検討する。 以上、当初の年次計画のとおり研究を推進する予定であるが、コロナウイルス感染予防対策をさらに強化したうえで実験を実施する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染予防のため大学への学生の入構が一時期制限された。その間、実験参加者の確保が困難になり実験実施が遅れることとなった。その結果、年間を通して当初予定よりも実験実施回数を減らさざるを得なくなり、実験にかかる謝金や消耗品等に対して次年度使用額が生じることとなった。しかし、コロナウイルス感染対策を十分実施したうえでの実験実施のノウハウを得たため、次年度は当初予定通り実験を進める予定である。
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[Book] 睡眠学2020
Author(s)
林 光緒 他
Total Pages
696
Publisher
朝倉書店
ISBN
9784254301205