2020 Fiscal Year Research-status Report
前景と背景の視覚情報処理過程の発達:文化差の起源を発達に探る
Project/Area Number |
19K03371
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
金沢 創 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (80337691)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 乳児 / 視覚 / 文化差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、認知や知覚処理のスタイルが、発達過程における学習によって構成されているとの作業仮説を設定し、乳児の知覚認知に関する様々な実験を行うことで、その獲得過程を明らかにすることを目指した。特に顔認知を中心にいくつかの重要な発見を行い、これを国際誌にて報告した。 1つ目の研究は、母親顔への乳児の選好を利用し、似顔絵などに描かれる顔特徴を認知できるようになるのはいつ頃からかを検討したものである。刺激としては、写真による母親顔、似顔絵ソフトによる母親顔、線画による母親顔、の3種類の顔を用意し、生後6~7ヶ月頃の顔認知の発達を検討した。その結果、生後6ヶ月頃には写真による母親顔への選好が発達してくる一方、似顔絵の認知は生後7か月頃に成立することが明らかとなった。この結果は、顔特徴を手掛かりとした顔認知が成立し、顔空間が発達してくる月齢が生後7か月頃であることを示唆している。 2つ目の研究は、顔と声の情報の統合過程を、NIRS(近赤外分光法)を用いて検討したものである。この研究では、声と口の動きがある条件で矛盾するとき、この2つが統合され実際に発していない音声が聞こえる「マガーク効果」を乳児において検討したものである。実験では、日本人の赤ちゃんに対し、日本人の発話している顔と、西洋人(イギリス人)の発話している顔を見せ、それぞれの顔に対する乳児の脳活動を測定した。その結果、顔と音声が統合されることによって生じるマガーク効果は自人種の顔に対してしか生じず、顔認知における文化的な発達過程が、音声知覚の発達にも結び付いていることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、数多くの知覚認知の文化差を示す現象の中らか「背景と前景の分離」という現象にターゲットを絞り、主に眼球運動の指標を用いながらその文化差の発達過程を検討していく予定であった。しかしながら、コロナ禍の発生により乳児を被験者として実験することが難しい状況が依然として続いている。この状況は、特に欧米において厳しく、共同研究を予定していたスイスとフランスでは、全くデータが取れない状況が1年半近くにわたって継続しており再開の見込みもたっていない。一方、中央大学の八王子キャンパスは、都心から離れたキャンパスであることもあり、少ないながらも実験データを取得できる環境が維持できている。この環境を利用し、当初の計画を若干変更しつつ従来から行ってきた実験データをもとに顔認知の文化差と顔認知の発達研究を進めることとした。その結果、当該年度においては2つのクリアな結果を得ることができ、コロナ禍の状況を鑑みれば、着実な成果が上がっていると捉えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
実験的方法については、引き続き選好注視法および馴化法を用いた行動実験を軸に、瞳孔反応などの生理的指標についても模索していく。コロナ禍を考慮し、国際的比較は難しいことを前提に、日本国内における可能は範囲でのデータ取得につとめる。その際、当初の計画にあるとおり、認知的能力が文化的な影響をうけながら獲得されていく過程を検討するという中心テーマは引き続き重要視し、顔刺激を用いた乳児実験というパラダムを中心に、発達的な実験を進めていく。刺激呈示のパラダイムや呈示時間など、具体的な指標を模索しながら、最終的には国際誌の査読を突破できるレベルの実験データ取得を引き続き狙っていく。
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Causes of Carryover |
当該年度も予算消化については、コロナ禍という状況を鑑み、その消化が困難であった。特に本研究の当初の目的である異文化比較を行うための予算消化は、フランスやスイスといった欧州各国のロックダウンの状況が改善されていない現状においては、その消化が困難であったことが指摘できる。 次年度については、コロナ禍による制限がある程度緩和されることを見込み、瞳孔反応などの生理的指標を用いて実験を再開すること狙い、実験遂行及びデータ解析のための人件費を含めた予算使用を計画している。
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Research Products
(2 results)