2021 Fiscal Year Research-status Report
前景と背景の視覚情報処理過程の発達:文化差の起源を発達に探る
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19K03371
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
金沢 創 日本女子大学, 人間社会学部, 教授 (80337691)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 乳児 / 視覚 / 文化差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究計画では、認知や知覚処理のスタイルが、発達過程における学習によって構成されているとの作業仮説を設定し、乳児の知覚認知に関する様々な実験を行うことで、その獲得過程を明らかにすることを目指した。2021年度も顔刺激を中心に生理的指標、脳活動、注意課題、など、乳児を対象とした様々な知覚認知課題を実施し、その成果を国際誌にて報告した。 本年度の1つ目の研究は、乳児の顔刺激への選好を利用し、最初に目が行くいわゆる「first look」を指標として、上下視野の異方性を、乳児を対象に検討した(Tsurumi et al., 2022)。その結果、家などのコントール画像と比較し、顔画像の場合は上に提示された顔画像を高い確率で最初に見ることが確認された。この結果は、視野全体の中で顔は上に現れやすいという視覚経験を反映したものかもしれない、との解釈がなされた。 次に乳児を対象に、顔刺激を用いて瞳孔反射を計測した(Tsuji et al.,2022)。この研究では、行動ではなく瞳孔反射という生理的指標を用いて、その発達を検討した。その結果、乳児は画像の中の瞳孔の変化に対して反射的に瞳孔径が変化することが示唆される結果が得られた。 2021年度も、乳児を対象にNIRS(近赤外分光法)を用いて脳活動の計測を行い、認知発達の生理学的な基盤を明らかにしてきた。(Yamanaka et al., 2022, Tsuji et al., 2022, Kobayashi et al., 2022)。顔画像、アニメ・キャラクター画像、「いないないばあ」を行っている画像、歩いて向かってくる人物の動画像、などに対する乳児の脳活動を検討した。その結果いずれも側頭部を中心とした部位における顔画像への処理が示唆される結果となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、数多くの知覚認知の文化差を示す現象の中らか「背景と前景の分離」という現象にターゲットを絞り、主に眼球運動の指標を用いながらその文化差の発達過程を検討していく予定であった。しかしながら、世界的なコロナ禍の発生により乳児を被験者として実験し国際的に比較検討することが難しい状況が本年もある程度継続した。共同研究先のフランス、およびスイスでは、実験室での乳児実験はある程度再開はしたものの、本申請書にある計画を完全に実施できる状況にはならなかった。一方で、中央大学八王子キャンパスでは、いち早く乳児実験再開をできる状況であったため、脳活動や瞳孔反射などの生理的指標を含めた様々な乳児を対象とした知覚認知実験のデータを無事収集し、国際誌での発表へとつなげることに成功した。当初の計画を若干変更しつつ従来から行ってきた実験データをもとに顔認知の文化差と顔認知の発達研究を進めることとし、当該年度においてはいくつかのクリアな結果を得ることができ、コロナ禍の状況を鑑みれば、着実な成果が上がっていると捉えることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
実験的方法については、引き続き選好注視法および馴化法を用いた行動実験を基本に、乳児の知覚認知発達を検討していく。また、あわせてNIRS、瞳孔反射、SCR、などの生理的指標についても引き続き検討する。こうした手続きから乳児の知覚認知の発達に及ぼす文化の影響も自ずと明らかになっていく。欧州の状況から、本計画の期間中に国際比較を行うことは、残念ながら難しい状況ではあるが、引き続き緊密な連携を取りながら実験を進めており、知覚認知発達における文化間の違いも明らかになっていく予定である。 いうパラダムを中心に、発達的な実験を進めていく。 刺激呈示のパラダイムや呈示時間など、具体的な指標を模索しながら、最終的には国際誌の査読を突破できるレベルの実験データ取得を引き続き狙っていく。
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Causes of Carryover |
本年も引き続きコロナ禍が継続しており、大学キャンパスへの入校の問題など、一部の実験はオープンになりつつあるものの、全面的な外部からの入校については制限がかかっており、引き続き制限がついた中での実験実施となっている。このため、データ取得期間を延長することにより、継続的に年度をまたいで実験を行う必要がある。また、コロナ禍により海外出張を含め国内においても出張する機会が強く制限されていた為、今年度の研究打ち合わせなどや学会などの出張を予定している。
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Research Products
(5 results)