2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K03402
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
上岡 修平 京都大学, 情報学研究科, 助教 (70543297)
|
Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
|
Keywords | 平面分割 / 数え上げ組合せ論 / 可積分系 / ランダムウォーク / 乱択アルゴリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
逆平面分割は「よい」母関数,すなわち解析しやすい積の形に表せる母関数を持つ組合せ論的オブジェクトであり,組合せ論分野において重要な研究対象である.本研究の主目的は,逆平面分割およびそれに類する組合せ論的オブジェクトに対して,よい母関数を新規に発見・構成することである.本研究の特色は,よい母関数を構成するために直交多項式および可積分系を利用する点にある.本研究の3年目までの期間において,逆平面分割のよい母関数を,離散二次元戸田方程式という可積分系の解から構成する手法を開発した.
本研究の4年目にあたる令和4年度では,この手法の新しい応用として,平面上の格子路(ランダムウォーク)および逆平面分割をランダムに生成するための乱択アルゴリズムを,離散二次元戸田方程式に基づき開発した.本アルゴリズムは,可積分系の解から逆平面分割のよい母関数をつくるという本研究のアイデアを,ある意味で逆転して得たものである.同様の目的で考案された既存のアルゴリズムと比較するとき,本アルゴリズムの新規性および利点は次の(i)と(ii)を両立している点にある. (i)適用範囲の広さ:一様分布とは限らない多様な確率分布に対して,まったく同じ方法で逆平面分割を生成することができる.確率分布の多様性は,基盤に据えた離散二次元戸田方程式の解の多様性に直接由来する. (ii)高速性:同様の目的で考案された既存の最速アルゴリズムと比較して,理論的な時間計算量は同程度である.実際の数値実験では,Borodin-Gorinのアルゴリズム(2009)よりも2倍弱速く,Krattenthalerのアルゴリズム(1999)より10倍弱遅いことが確認された.ただしこれら既存の手法は(i)の機能を持たない.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度の当初計画では主に次の事項の実施を予定していた. ・対称な逆平面分割に対して,直交多項式および可積分系によるよい母関数の構成法を定式化し,それを用いて未知のよい母関数を具体的につくる.
研究実績の概要で述べた通り,本年度は,対称性を課さない逆平面分割に対して,本研究の当初の目標からさらに進んだ地点にある応用研究(乱択アルゴリズムの開発)を実施した.その結果,当初の目論見外の成果を得ることができ,本研究の方法論について,意義のある新しい研究の方向性を見出すことができた.一方で,対称な逆平面分割のよい母関数をつくるという当初の目標については,よい母関数の予想式やパフィアン表示など準備段階の知見はあるものの,実施を完遂できていない.次年度は,対称な逆平面分割について,本年度に得た乱択アルゴリズムに関する知見も参考にしつつ研究を進めていく.
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年にあたる令和5年度では以下2点を実施する. (1)直交多項式および可積分系による対称な逆平面分割のよい母関数の構成:本研究で得られた,逆平面分割などのよい母関数の構成法,および逆平面分割の乱択アルゴリズムに関する知見を活用し,対称な逆平面分割のよい母関数の構成法を直交多項式(歪直交多項式など)および可積分系(Pfaff格子など)を用いて定式化する.またそれに基づき未知のよい母関数を具体的につくる. (2)上記(1)において未知の直交多項式が現れた場合,その性質を詳しく調べる.特に,古典直交多項式を拡張する直交多項式が見つかった場合,オリジナルの古典直交多項式が満たすよい性質(明示公式,直交関係式,微分・差分方程式による特徴付け,上昇・下降演算子の存在など)について重点的に調べる.その成果をフィードバックしてよい母関数のさらなる発見につなげる.
|
Causes of Carryover |
次年度使用額(1,901,162円)が生じた主な理由のひとつは,参加を予定していた研究集会・学会の一部がオンライン開催となり,その分に計上していた旅費等が使用できなかったことである.主な理由のもうひとつは,購入予定であった研究用計算機などの調達が,国際的な半導体不足の影響でうまく進まず,その分に確保していた物品費等が使用できなかったことである.
次年度には当初,物品費(関連分野の図書の購入等)に100千円,国内外の旅費に400千円の,計500千円を請求していた.これに加えて,次年度使用額(約1,900千円)を次のように使用する.(i)研究用計算機(2台)などの購入(1,500千円,できるだけ早期),(ii)研究発表・資料作成用の機材(タブレットPC等)の購入(300千円),(iii)研究交流での謝金等(50千円),(iv)国際会議・学会の参加費等(50千円).
|
Research Products
(2 results)