2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K03485
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
加藤 久男 筑波大学, 数理物質系(名誉教授), 名誉教授 (70152733)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 位相力学系 / 幾何学的トポロジー / カオス / 位相エントロピー / フラクタル / 位相次元 / 連続体 / Takensの埋込み定理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、位相力学系・幾何学的トポロジーの主な研究対象であるコンパクト距離空間・可分距離空間とその上の連続写像の位相力学的・幾何学的性質を研究対象とする。位相空間論・幾何学的トポロジーと位相力学系理論およびエルゴート理論を駆使して総合的に研究する。力学系理論に現れる複雑な不変集合の幾何構造と力学的構造の解明を研究のメインテーマとする。そうした複雑なコンパクト距離空間の幾何構造・力学的構造はたいへん興味深い研究対象である。本研究の研究実績として以下の結果を得ている:正のエントロピーをもつ同相写像を許容するグラフ・ライクな連続体は、分解不可能な連続体を含む。さらに正のエントロピーをもつ同相写像を許容するグラフ・ライクな連続体について、カオス構造定理(幾何学的構造と力学的構造の関連を表示する)を得た。この定理は幾何的な構造と力学的な構造の複雑さが調和した定理である。力学系をカントール集合上の力学系で表示する、いわゆるゼロ次元表示についても研究成果を得ている。また、この研究の副産物として、データ解析、時系列解析から両側力学系を再構成できるという有名なTakensの埋込み定理が知られているが、我々は2021-2022年度の研究で、Takensの定理をより一般的な空間と連続写像にまで拡張できることを発見した。Takensの定理は実験から数学モデルの再構成可能を保証する実験科学における貴重な定理であるが、多様体上の滑らかな両側力学系(可逆的な)に限られる。我々の定理は、より一般的な空間の力学系にも応用できる非可逆的な力学系にも通用する拡張定理である。この定理は、なんの制限もない(片側)力学系の解明に、時系列解析の遅延座標によるある種の埋込みが鍵になることを理論的。数学的に証明した定理である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
力学系のゼロ次元表示の研究(日本数学会のジャーナルに出版)の副産物として、当初は全く予想していなかったTakens定理の拡張定理を発見をした。現象のデータ解析、時系列解析から本来の現象(力学系)を再構成できるという有名なTakensの埋込み定理が知られている。このTakens定理は、実際の実験データ(1次元データ)から殆どすべて、現象の数学モデルを再構成できることを保証するもので、現在の実験科学にとって貴重な定理となっている。1981年Takensがこの定理を証明して以来、多くの分野、例えば、物理、化学、情報理論、生命科学、工学など多くの実験科学でこの定理が使用されてきた。しかし、そこで扱われる現象は滑らかで、かつ可逆的な力学系に限られていた。我々は、2021-2022年の研究で、この定理を殆ど全ての力学系(片側)にまで拡張できることを証明した。我々の定理は、一般的な空間上の力学系にも応用できる力学的埋蔵定理であり、時系列解析による自然現象・社会現象の解明にとって極めて重要な定理と考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前年までの基本方針に従い研究を進める予定であるが、研究の進み具合に応じて研究テーマの内容の検討を行い、その時点で必要に応じた連携研究者・分担者の追加など研究計画を弾力的に見直していく予定である。また、2022年度もコロナ感染症の状況次第であるが、研究代表者は国内外の研究集会・国際会議に積極的に参加し、研究発表や研究成果のレビューもできるだけ積極的に行っていく予定である。本研究を進める上で国内外の研究者との研究協力は欠かすことができないものと考えている。特に各研究テーマについて内外のトポロジーおよび力学系研究者との共同研究・討論を更に精力に進めていきたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症が世界に蔓延しているため、計画していた日本や国外での研究集会の参加を取りやめた。状況次第ではあるが、今後はさらに国内外の研究集会において研究発表を数多く行う予定である。
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