2020 Fiscal Year Research-status Report
境界付き多様体のMorse理論と, そのFloer理論への応用
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19K03495
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
赤穂 まなぶ 東京都立大学, 理学研究科, 准教授 (30332935)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 境界付き多様体 / Morseホモロジー / Floer理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目標の一つは境界付き多様体上のMorseホモトピーの構成である。90年代K. Fukayaはコンパクトなシンプレクティック多様体におけるラグランジュ部分多様体のFloer理論との関連から閉多様体上にMorseホモトピーを構成した。MorseホモトピーとはMorse関数の臨界点を端点としMorse関数の勾配ベクトル場の積分曲線を辺とするtreeグラフの数え上げを用いてある種の代数を構成し多様体の代数トポロジー的な情報を引き出すという理論である。例えばMorseホモトピーから得られるMorse複体のホモロジー群は閉多様体の特異ホモロジー群と同型になる。またY字グラフの数え上げからMorse複体上のカップ積が構成できる。本研究代表者はこれまでconcaveエンドを持つ非コンパクトなシンプレクティック多様体におけるラグランジュ部分多様体のFloer理論との関連から境界付き多様体上のMorse理論を研究してきた。通常、境界付き多様体上では勾配ベクトル場が境界の外向きもしくは内向きを向くMorse関数を扱うが、本研究代表者の研究では境界付き多様体上の適当なRiemann計量と勾配ベクトル場が境界に沿ったMorse関数を扱う。これまでの研究業績としては、勾配ベクトル場が境界に沿ったMorse関数からMorse複体を構成し、そのホモロジー群が(absolute)特異ホモロジー群と同型になることを示した。またさらにある種のY字グラフの数え上げから境界付き多様体上のMorse複体上にLeibniz則を満たす積を構成した。次の目標は境界付き多様体上のMorseホモトピーの構成であるが、現在までの進捗状況で詳しく述べる通り、まだ現時点では困難な点が多い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
閉Riemann多様体M上のMorse関数fに対して、fのMorse指数がkの臨界点を生成元とする自由加群をC_kとし、境界準同型∂:C_k→C_{k-1}を∂p:=Σn(p,q)qと定める。ただしn(p,q)とは臨界点pとqを結ぶfの勾配ベクトル場の積分曲線の本数である。そしてこのとき∂∂=0となることがわかり、そのホモロジー群はMの特異ホモロジー群と同型になる。また閉Riemann多様体上の滑らかな関数f_1, f_2, f_3に対して各f_i-f_jはMorse関数であるとし、適当なMorse指数の条件の下でf_3-f_2の臨界点p、f_2-f_1の臨界点q、f_3-f_1の臨界点rに対して、各辺がf_3-f_2、f_2-f_1、f_3-f_1の勾配ベクトル場の積分曲線でp、q、rを結ぶY字グラフの本数n(p,q;r)を結合係数にして積m_2(p,q):=Σn(p,q;r)rが定義される。これら臨界点を結ぶ勾配ベクトル場の積分曲線の本数やY字グラフの数え上げはMorse関数の臨界点の不安定多様体の交叉の様子を拾い上げているので、Mの代数トポロジー的な情報が抽出できると言う仕組みになっている。境界付き多様体上のMorse関数に対しても同様に臨界点の不安定多様体の交叉を注意深く観察しながらMorse複体やそれ上の積を構成したが、ここで扱っているMorse関数は境界上にも臨界点を持つため、臨界点を結ぶ勾配ベクトル場の積分曲線やY字グラフを用いた臨界点の不安定多様体の交叉の記述が非常に複雑になるという問題点がある。改めて境界準同型∂をm_1、積をm_2とすると、本来Morseホモトピーでは高次の積m_3、m_4、…を構成する必要があるのだが、このtreeグラフによる不安定多様体の交叉の記述の複雑さの問題から現時点ではm_3以降の高次の積の具体的な構成には至っていない。
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Strategy for Future Research Activity |
Morseホモトピーでは複数の滑らかな関数f_1、f_2、…を用いてA∞圏を構成するが、これはFloer理論の立場から見ると複数のLagrange部分多様体L_1、L_2、…を用いてFukaya圏を構成することに対応している。一方T. Mazuirは閉多様体上のMorse関数fに対してfの摂動した勾配ベクトル場に関するtreeグラフの数え上げを用いてfのMorse複体上にA∞代数を構成している。これはFloer理論の立場から見ると一つのLagrange部分多様体の特異鎖複体上にA∞代数の構造を構成していることに対応している。摂動した勾配ベクトル場に関するtreeグラフを用いる方法は記述が比較的簡潔なため、これを境界付き多様体上の一つのMorse関数に試してみる価値はあると思われる。ただしここでも境界上のMorse関数に臨界点があるためにtreeグラフの数え上げによるA∞代数の高次の積の具体的な記述は非常に複雑になると予想される。またMazuirの論文ではA∞代数の上部構造としてΩBAs代数という概念を導入している。A∞代数を司るmetric ribbon treeグラフのモジュライ空間(結合多面体)は端点がn+1個のmetric ribbon treeグラフ全てを内包しているが、ΩBAs代数ではtrivalent treeグラフの型ごとにmetric ribbon treeグラフのモジュライ空間(結合多面体のΩBA包体分割)が現れる。この結合多面体のΩBA包体分割を用いることによりMorseホモトピーにおける種々のモジュライ空間の微分構造と向きが格段に扱いやすくなるものと期待される。(ただしラグランジュ部分多様体のFloer理論には恐らくΩBAs代数の構造は現れないものと思われるため、ΩBAs代数の構成はMorse複体上に限定した話になってしまう。)
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、2020年度は新型コロナの影響で出張旅費の使用額がなかったためである。これはこれまでの使用実績および使用計画が(ほぼ)全額旅費に当てられていたためやむを得ぬ判断となった。また本来は次年度(2021年度)に国際研究集会East Asian Symplectic Conferenceを開催する予定であったが、現時点ではその開催の目処も立っていない。したがって、本科研費の使用が大幅に執行できない場合には延長と返上の両方の可能性を見据え、これからの使用計画を見直す。
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