2021 Fiscal Year Research-status Report
錐双曲多様体の標準的基本多面体族を用いた3次元幾何構造の研究
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19K03497
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
秋吉 宏尚 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (80397611)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 双曲幾何 / 基本領域 / 実射影構造 / 凸集合 |
Outline of Annual Research Achievements |
コンパクトでない双曲錐多様体を基本多面体の立場から研究する際、そのエンドの組合わせ的構造の解析がひとつのネックとなる。例えば、Ford領域の研究でよく行われているように、エンドを持つ多面体を双曲空間の上半空間モデルを用いて観察する際には、領域のエンドには半球面に含まれる複数の面と無限遠球面の領域の和集合という複雑な構造が現れ得る。この問題点の解消に大きく寄与すると期待される着想を昨年度に得たが、今年度はその基礎理論の整備を行なった。 本課題の中心的研究対象は3次元双曲錐多様体であるが、基礎理論整備のため、まずは錐特異点を持たないカスプ付き双曲多様体を考察の対象とする。そのFord領域はカスプのホロ球体的近傍を固定してその切断の軌跡(cut locus)で切り開くことで得られる。同様に、Dirichlet領域は基点を固定してその切断の軌跡から得られる。この構成は、双曲空間を双曲面として包含するMinkowski空間モデルに持ち上げると、いずれの領域もMinkowski空間内の離散点集合のMinkowski内積に関する二等分面が定める凸多面体と双曲面との交わりとして記述される。この構成を、双曲面と交わりをとることなくMinkowski空間内の凸集合に着目するということを行い、それを双曲空間を開集合として包含する実射影空間に射影することで得られる領域を拡張されたFord(またはDirichlet)領域と呼ぶことにする。 上記の研究に関して、今年度得られた成果は次の通りである。凸核が内点を持つカスプ付き双曲多様体に対し、拡張されたFord領域は真性凸(properly convex)集合である。また、この領域はカスプに対応する正光的錐(positive light cone)の点集合の閉凸包の頂点における接錐の双対(polar dual)である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では双曲的2橋絡み目を特異点集合として持つ双曲錐多様体の変形族を基本的多面体族として定義されるFord/Dirichlet領域を用いて詳細に調べることを目的とする。特にその数値計算による実験の側面からネックとなっていた基本領域のエンドの組合わせ構造の記述に関する問題点を解消する可能性を秘めた「拡張されたFord領域」を定義し、現在はその基礎理論の整備を進めているところである。この領域は「exoticな」幾何構造の観点から進められている多様体の実射影構造の変形とも密接にかかわることが期待される。実際、拡張されたFord領域をホロノミー写像で展開することで得られる領域が真性凸集合となり、底多様体に標準的な双曲構造の拡張として定まる真性凸実射影構造を定めるのではないかなど、研究領域を大きく広げ得る興味深い問題が新たにいくつも見つかった。また、整備の進んでいる双曲多様体に対する性質を錐多様体へと一般化するために、この拡張の内在的な記述の発見なども本研究課題の重要な研究方針として追加された。 並行して進めているファイバー構造を持つ双曲的2橋絡み目から得られる錐多様体の研究に関しては、その第一歩となる8の字結び目を錐特異点集合とする錐多様体に関する研究を雑誌論文として発表した(研究発表欄参照)。今年度は阪田直樹氏(埼玉大)との共同研究において、具体例の考察のための複雑度に関する論点の整理を行い、単純な具体例に対して行うことを目指す数値実験の基本方針と解消すべき問題点の項目をまとめた。 国際共同研究推進のための海外出張を想定していた予算の一部をZoomなどによる遠隔ミーティングを行うための機材準備にあてることで、研究打ち合わせや様々なセミナーの開催を充実させてきた。これらの機材を新型コロナウィルス蔓延の影響を受けて延期している国際共同研究の推進にも活用していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
拡張されたFord/Dirichlet領域に関する理論の整備が喫緊の課題である。錐特異点を持たない場合、既に、拡張されたFord領域がMinkowski空間内のある凸集合の双対として得られることがわかっているが、その研究をさらに進め、組合わせ構造の双対性について詳しく調べたい。穴あきトーラス擬フックス群に対するEPH分解(Epstein-Penner分解の拡張)の組合わせ構造はGueritaudにより解明されたが、拡張されたFord領域はその部分複体の双対複体の構造を持つことが自然に期待される。その証明を目指し、必要となるEPH分解に関するより精密な構造を解明する。また、錐特異点を持つ場合にこの考察を拡張するため、拡張されたFord領域を内在的な量により再構成することを目指す。そのためには、拡張されたFord領域を実射影空間内で展開することにより得られる領域の凸性等を解明し、真性凸実射影構造の一般論を援用することが基本方針となる。 基礎理論の整備とともに、双曲的2橋絡み目錐多様体の双曲構造の変形に関する研究を数値実験と並行して整備していく予定である。基本領域が双曲空間の外部まで拡張されることでコンパクト化されることで、双曲空間内の基本多面体を用いるという従来の手法では捉えきれなかった離散でない表現の持つ対称性などの構造が明らかにできると期待している。ファイバー構造を持つ2橋絡み目から得られる錐多様体の研究にもこの観点を導入して研究を進める予定である。さらに、研究対象を広げ、風呂川氏により発見された特異な組合わせ構造を持つ穴あきクライン壺群の理解も目指して研究を進めたい。 また、今後もしばらくは新型コロナウィルス蔓延の影響が続くことが予測されるので、遠隔会議システムを整備・活用し、国際研究集会等を主催することで研究交流をさらに加速することを予定している。
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Causes of Carryover |
計画していたシンガポールでの国際共同研究打ち合わせは政府の水際対策の強化の影響で再延期が必要となった。今後は状況が収束し、海外での研究打ち合わせも可能になると期待して、次年度の申請旅費と合わせて活用予定であるが、予算の一部は遠隔会議システムの拡充にも充てることを予定している。
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Research Products
(3 results)