2022 Fiscal Year Research-status Report
錐双曲多様体の標準的基本多面体族を用いた3次元幾何構造の研究
Project/Area Number |
19K03497
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Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
秋吉 宏尚 大阪公立大学, 大学院理学研究科, 教授 (80397611)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 双曲幾何 / 錐多様体 / 軌道体 / 基本多面体 / 実射影構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、昨年度に引き続き、カスプ付き双曲多様体を主たる研究対象とし、“拡張された”Ford 領域およびDirichlet領域の持つ性質に関する基礎理論の研究を進め、大きく分けて次の二つの結果を得ることができた。 本研究の着想の源となった二橋結び目錐双曲多様体の具体的構成に関する数値実験では、Ford 領域およびDirichlet領域を組み合わせて考えることで、二橋結び目の橋曲面の擬フックス構造から二橋結び目錐双曲多様体へとつなぐ変形族で、組み合わせ構造の変化がある種の単調性を持つものの存在が期待されていた。その変形族はターゲットとする二橋結び目のスロープで折れ曲がる「有理折目多様体」の拡張として定義されるものである。錐特異点を持たない場合に、この有理折目多様体上の拡張されたFord領域の組み合わせ構造は不変であることがわかった。この成果は研究集会「Intelligence of Low-dimensional Topology」で講演し、その概要を査読なしの論文として数理解析研究所講究録で発表した。また、昨年度得られた、拡張されたFord領域が実射影空間内の真性凸(properly convex)集合であるという性質の証明を精密化することにより、付随する実射影構造の展開写像の像がproperであることが判明した。 拡張されたFord領域はMinkowski空間内のある凸集合の双対集合から定められるが、Dirichlet領域についても同様の構成を行うことにより、拡張されたDirichlet領域を考えることができる。今年度は、この双対性を有限体積双曲多様体のDirichlet領域の性質の研究に応用した。その結果、有限体積双曲多様体のDirichlet領域の組み合わせ構造は基点を任意に動かしても高々有限個しか現れないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
双曲的二橋絡み目を特異点集合として持つ双曲錐多様体の変形族に対し、数値計算による実験の側面からネックとなっていた基本領域のエンドの組合わせ構造の記述に関する問題点は、拡張されたFord領域により解消できると期待して研究を進めており、昨年度の研究成果から拡張されたFord領域をホロノミー写像で展開することで得られる領域が真性凸集合となり、底多様体に標準的な双曲構造の拡張として定まる真性凸実射影構造を定めるのではないかという魅力的な作業仮説を導いたのだが、今年度はその一部を解決することができた。残る局所凸性も示すことができれば、exoticな幾何構造の観点から進められている実射影構造の変形理論も本研究に取り込むことができるため、この方向の研究は着実に進展している。 Dirichlet領域の組み合わせ構造の個数の有限性の証明は、標準的な基本領域の研究にはMinkowski空間での双対による構成を考察することが有用であることをさらに強く示唆している。また、この双対による構成は連続的な基点の取り替えによりFord/Dirichlet領域をつなぐときにも自然な性質を持つことが期待されるため、今後はそれらの統一的な取り扱いを数値実験の精密化とともに進めていきたい。 本研究では国際共同研究推進のための海外出張を想定していた予算の一部をZoomなどによる遠隔ミーティングを行うための機材準備にあててきた。今年度も大阪公立大学を拠点として国際研究集会「The 13th KOOK-TAPU Joint Seminar on Knots and Related Topics and The 15th Graduate Student Workshop on Mathematics」をZoomを用いたハイブリッド形式で行うなど、研究打ち合わせや様々なセミナーの開催を充実させてきた。
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Strategy for Future Research Activity |
拡張されたFord/Dirichlet領域に関する理論の整備を引き続き進めていくことが本研究をより広い研究へと導くために大変重要となる。昨年度期待していた、穴あきトーラス擬フックス群に対するEPH分解(Epstein-Penner分解の拡張)と拡張されたFord領域の組み合わせ構造の関係は、有理折目多様体上では明確なものとなった。今後は無理折目多様体での性質も精密に解析していきたい。また拡張されたFord/Dirichlet領域を統一的に取り扱うため、基点の連続的な取替における拡張された領域の連続性についての考察も進めていく。並行して、双曲的二橋絡み目錐多様体の双曲構造の変形に関する研究を数値実験と並行して整備していく予定である。エンドの性質に関するボトルネックの解消のために新たな理論の整備を同時に進めてきたのだが、これが本来は中心的に研究を進めることを予定したものであった。基本領域が双曲空間の外部まで拡張されてコンパクト化されることで、双曲空間内の基本多面体を用いるという従来の手法では捉えきれなかった離散でない表現の持つ対称性などの構造が明らかにできると期待している。 さて、新型コロナウィルスの蔓延により、研究初年度から予定していた国際共同研究のための研究打ち合わせに関する旅費の支出が予定より少ないため、研究期間を1年間延長した。2023年度には新型コロナウィルスの感染症の位置づけも変更されるなど、海外出張も比較的容易になるため、国際共同研究を積極的に推進していきたい。具体的には、7月に京都で行われる国際会議「Characters and Moduli of Surfaces」に参加するSer Peow Tan氏と本研究の応用についての研究打ち合わせを行う。また、7月には組織委員として計画中の国際会議の際に韓国に渡航し、研究打ち合わせを進める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの蔓延により、研究初年度から予定していた国際共同研究のための研究打ち合わせに関する旅費の支出が予定より少ないため。2023年度には新型コロナウィルスの感染症の位置づけも変更されるなど、海外出張も比較的容易になるため、繰り越し分は国際共同研究の推進を中心として使いたい。具体的には、7月に京都で行われる国際会議「Characters and Moduli of Surfaces」、および、7月に韓国での開催を組織委員として計画中の国際会議への参加と研究打ち合わせを主な使途として予定している。
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Remarks |
本研究に関連して主催した国際研究集会のホームページである。
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