2021 Fiscal Year Research-status Report
Loewner theory on deformation of universal covering maps
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19K03519
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
柳原 宏 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (30200538)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | universal covering / Loewner chain / evolution family / Julia's lemma / distortion estimate / extremal functions |
Outline of Annual Research Achievements |
レブナー理論とは, 複素平面内の双曲的な単連結領域の時間発展による変型を扱うものであり,対応する等角写像の変形を微分方程式で記述,制御することを可能とする. 理論自体は20世紀初頭に導入され古典的と見做されていたが,21世紀初頭に統計物理・共形場理論への応用が見出され, さらに2012年には関連する方程式を全て統合・一般化する統一レブナー理論が提唱された. 本研究課題の先行研究により,レブナー理論において取り扱う対象を等角(単射かつ正則)写像から, 普遍被覆写像について拡張が出来ることが示されている. このとき像領域に関する幾何学的な連続性を保ったまま拡張が行うことが可能であり, これにより像領域の幾何学的な挙動から,対応する普遍被覆写像の解析的な評価を得ることが可能になる. 特に単葉性の仮定を省くことにより, 像領域が単連結から多重連結になることが許され,時間とともに連結度が変化する領域の時間発展に関するレブナー鎖を考察することが可能になる. このように一般化されたレブナー鎖について理論の整備・拡張を行うことが, 本研究の課題である. 当該年度においてはレブナー鎖から生じる evolution family と呼ばれる, 単位円から自身への正則写像のなす Markov 連鎖に類似の族の研究に必須ツールである Julia の補題について, 精密化を行うことが出来た. 従来の Julia の補題では函数の増大度についての情報が得られるのみであったが,これを歪曲評価に関する情報が得られるように変更することに成功した. この評価は sharp なものであり, より詳しい variability region について, その形状を決定することにも成功している. さらに variability region の境界値を達する個々の極値函数についても, その形を決定し, かつ一意性が成り立つことを証明した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
レブナー鎖にはevolution family と呼ばれる単位円板から自身への正則写像の2パラメータ族が付随する. この evolution family の研究について, 境界上に固定点を持つ正則写像の研究が必須である. このような写像の増大度評価に関しては Julia の補題と言うsharp な不等式が古典的な結果として知られている. この不等式は単位円板の内部に固定点を持つ場合の評価式である Schwarz-Pick の不等式と並んで歴史的にもまた近年でも盛んに研究されている. Schwarz-Pick の不等式の場合は増大度評価を歪曲評価に変更した結果がよく知られているのに比して, Julia の補題の場合は増大度評価のみがよく知られていて, 歪曲評価に関する結果は殆ど知られていない. 当該年度の研究により variability regionという究極の形での歪曲評価が得られ, さらに variability region の境界値を達する extremal function の決定並びに一意性まで示すことに成功した. 本研究の課題の中の一部ではあるが, sharp な形の評価という, 言わば望外の結果を得ることができたので, 研究はおおむね順調に推移していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度は東北大や東工大への出張や, 本研究と関係が深い研究者の招聘を予定していたが, その前年度と同じようにCOVID‐19の為に殆どとりやめざるを得なかった.厳しい状況の中でも東北大の須川教授,インド工科大の Vasudevaro 准教授とのリモートでの研究打合せがある程度出来たこと. 次年度こそ, 実際に出張し対面での研究打ち合せを行いたい. これからの研究の主体となるのは単位円板から自身への正則写像に関する Julia の補題,及びそれにまつわる歪曲評価について, 上半平面から自身の中への正則写像についての対応を考えることである. 何故ならば stochastic レブナー方程式などの研究では半平面容量という概念が大きな役割を果たすが, これの単位円板での対応物が角微分係数であり, Julia の補題の中心的な対象である. 従って単位円板で得られた結果の対応物を考えることにより stochastic レブナー方程式への応用があるのではと考えている. また普遍被覆写像の像領域をリーマン面に拡張することも視野に入れて行きたい. このときの問題は像のリーマン面の種数がどのように変化するかであり, まだ殆ど知見は得られていないので, 手付かずの問題が残っていると予想される.
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Causes of Carryover |
COVID‐19の為に当該年度に予定していた国内出張,国外出張を全てとりやめざるを得なかった.まだ予断を許さぬ状況ながら今年度の終わりには状況が緩和されていることが前提であるが, 国内出張や国内の関係の深い研究者の招聘を行うことを考えている.また出張等をしなくても研究打ち合わせが行えるようにルータなどのネットワーク環境の整備やデスクトップパソコン,ノートパソコン,ソフトウェアなどを購入したいと考えている.
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