2022 Fiscal Year Research-status Report
Loewner theory on deformation of universal covering maps
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19K03519
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
柳原 宏 山口大学, 大学院創成科学研究科, 教授 (30200538)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | universal covering / Loewner chain / evolution family / Julia's lemma / distortion estimate / extremal functions |
Outline of Annual Research Achievements |
レブナー理論とは,複素平面内の単連結領域で双曲的なものの時間発展による変形を取り扱うものであり,対応する単位円板からの等角写像の変形を微分方程式で記述,制御することを可能とする. 理論自体は20世紀初頭に導入され古典的と見做されていたが,21世紀に入り統計物理との関係が見出され,現在活発に研究が行われている. 本研究課題の先行研究により, レブナー理論において取り扱う対象である領域が単連結に限られるという従来の制約を取り外し,多重連結領域まで拡張が行えることが示されている.ただしこの場合,取り扱う写像として等角(単射かつ正則)写像から, 普遍被覆写像という高次な対称性を持ち複雑な写像に変更をする必要がある. 当該年度においてはレブナー鎖を取り扱う際に必須のツールである,角微分係数に関する Julia の補題について精密化, 及び増大度評価から歪曲評価への変更を行うことに成功した.stochastic なレブナー理論においては,上半平面における半平面容量という等角不変量が重要な役割を果たすが,これの単位円板での対応する量が角微分係数であるから,これからの応用が期待できると考えている. またレブナー鎖に付随する evolution family の連続性について,従来は時間に関する正規化と呼ばれる強い微分可能性を課してきたが,これを理論構築が可能である限りにおいてどこまで仮定を緩めることができるかについて考察を行い,連続 evolution family という新しいクラスを提案することが出来た.そして family がこのクラスに属す為の必要条件や十分条件について各種の結果を証明し,まとめることができた.基本的であるが従来はあまり考察が行われていなかった部分について貢献が出来たと考えている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の内容自体は,上記の研究実績の概要にまとめたように, おおむね順調に進展している.しかしながら,当該年度に予定していた東北大や東工大への出張や, 本研究と関係が深い研究者の招聘について, その前年度と同じようにCOVID‐19の為に殆どとりやめざるを得なかった. 厳しい状況の中でも特に代表者の属している等角写像論・値分布論の定例の研究集会を復活できたことは,これからの回復の兆しではないかと考えている.また北海道大学及び,中央大学での秋と春の学会に参加することが出来た. 特に北海道大学での学会では企画特別講演を行う機会を頂き,本研究の背景から現在までに構成できた理論の枠組みについて発表することが出来た.講演後に各地の研究者との質疑応答も充実したものであった.残念ながらまだ一部の大学からは参加を見合わせた研究者がいたものの,久しぶりに直接研究の話をすることが出来た. 当該年度は東北大の須川教授,インド工科大の Vasudevaro 准教授とのリモートでの研究打合せがある程度出来た.この2023年度の夏にインドの Pondicherry 大学で開催される予定である有限次元・無限次元複素解析に関する国際研究集会には plenary talk を依頼されている.現在,集会の前後に各地の研究者を訪問し対面での研究打ち合せを行うべく日程を組んでいる.
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度は東北大や東工大への出張や, 本研究と関係が深い研究者の招聘を予定していたが, その前年度と同じようにCOVID‐19の為に殆どとりやめざるを得なかった. 厳しい状況の中でも東北大の須川教授,インド工科大の Vasudevaro 准教授とのリモートでの研究打合せがある程度出来たこと. 次年度こそ, 実際に出張し対面での研究打ち合せを行いたい. これからの研究の主体となるのは前年度までの研究に引き続き,単位円板から自身への正則写像に関する Julia の補題,及びそれにまつわる歪曲評価について, 上半平面から自身の中への正則写像についての対応を考えることである. 直接的に変換を行っても,単位円板上での歪曲評価は,上半平面での歪曲評価にはならず,何らかのアイデアが必要である. しかしながら stochastic レブナー方程式などの研究では半平面容量という概念が大きな役割を果たすが, これの単位円板での対応物が角微分係数であり, Julia の補題の中心的な対象である. 従って単位円板で成功した手法を修整することにより, 上半平面での歪曲評価に成功すれば stochastic レブナー方程式への応用があるのではと考えている. また普遍被覆写像の像領域をリーマン面に拡張することも視野に入れて行きたい. このときの問題は像のリーマン面の種数がどのように変化するかであり, まだ殆ど知見は得られていないので, 手付かずの問題が残っていると予想される.
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Causes of Carryover |
COVID19のために,予定していた東工大,東北大などの国内の研究者との研究打ち合わせ,及び海外の研究者との意見交換が取りやめになったために残額が生じてしまった. 次年度はリモートでの打ち合わせのために必要なタブレット端末やパーソナルコンピュータや,無線LANのルータなどの機器の更新と,関連の図書の購入を行いたい.またインドのPondichery 大学で8月に開催予定の,有限次元・無限次元複素解析国際研究集会で plenary talk を依頼されている,現在日程等の詳細を打ち合わせ中である.集会後にはインド工科大 Bhubaneshwar 校の Vasudevarao 准教授のもとを訪問したいと考えている.また Pondichery の集会には研究室の大学院生や,この春に博士後期課程を修了し就職したばかりの研究者も参加を希望している.旅費の支給を行いたいと考えている.また東北大学の須川教授の研究グループとは今までも活発に交流を行って来たので,グループの若手の研究者を招きたいと考えている,山口大学には複素解析の若手研究者が3人以上いるので,この機会に交流し意見交換を行い,可能ならば共同研究などにつながることを期待している.
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