2020 Fiscal Year Research-status Report
作用素論に基づいた量子情報理論における幾何学的構造の解明とその応用
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19K03542
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Research Institution | Osaka Kyoiku University |
Principal Investigator |
瀬尾 祐貴 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (90439290)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤井 淳一 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (60135770)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | Tsallis相対エントロピー / 作用素不等式 / 作用素幾何平均 / 正作用素 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、工学、情報幾何学、量子情報理論などの分野の作用素論的な枠組みの構築の密接な関連の必要性が喫緊の課題として挙がっているが、情報幾何学や量子情報理論におけるさまざまな幾何学的内容は、ヒルベルト空間上の作用素の枠組みの中では、必ずしも具体的に明らかになっていない。また、行列や作用素の文脈での様々なエントロピーやダイバージェンスなどの評価を中心とした研究も進んでいるとは言えない。 初年度では、この課題に取り組むために、2変数版の作用素ノルムを用いたAndo-Hiai型不等式のn-変数版幾何平均への拡張とその応用について、一定の成果を得た。 本年度では、その方向として、量子情報理論におけるTsallis相対エントロピーの諸性質を解明し、さらに非可換版の幾何平均の様相をノルム不等式の枠組みで明らかにした。古典的なTsallis相対エントロピーの量子化の方向は、その非可換性の故に、多くの量子化が提唱されている。その中で、梅垣相対エントロピーの1変数拡張版を阿部が提案し、そのパラメーターの変化により梅垣相対エントロピーの位置を明確化した。また、藤井-亀井による相対作用素エントロピーを用いた量子相対エントロピーが、定義できるが、古くから日合-Petzによりその関係性は知られていたが、最近古市により、1変数拡張版を用いた簡明な証明法が見つかった。私たちは、藤井-亀井による量子相対エントロピーの1変数拡張版を新たに導入して、2つのパラメーター間の関係を負の場合にこれまでは、研究をしていたが、今回、古田不等式の考え方を用いて、正の実数の場合でも、きれいな対称的な関係にあることを導くことができた。これにより、この量子化の考察がさらに深まると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画にあるように、この初年度は、研究分担者である藤井淳一氏との共同研究を通じて、作用素論的な視点で、情報幾何学や量子情報理論の枠組みを明確化する土台作りをし、これまで作用素論で築いてきた基礎理論との十分な連携を新しい視点で構築する体制づくりが固まりつつある。また、関連する文献の精査を通して、情報幾何学や量子情報理論と作用素論的な視点でのつながりについて、様々な観点で議論をしている。それらは、毎週行われている大阪教育大学での藤井正俊名誉教授の主催する数学セミナーにおいて、発表し、様々な観点で意見交換をしている。研究実績の概要でも述べたように、それらを踏まえて、すでにいくつかの研究成果を得ている。 Tsallis相対エントロピーの量子化については、梅垣による梅垣相対エントロピーが初期に提唱され、その1変数拡張として、Tsallis相対エントロピーが考えられた。また、研究分担者である藤井と亀井による相対作用素エントロピーの概念は実に30年以上前に提唱され、それを用いた相対エントロピーはBSエントロピーもしくは、FKエントロピーと呼ばれているが、古市らにより、Tsallis型相対エントロピーとして新しい衣装をまとい、1変数版の拡張として、その性質が研究された。その変数の負版を考察するにあたり、Kian氏との共同研究で得た負版の安藤-日合不等式が有効に作用し、2つのTsallis型相対エントロピーの新しい評価を得ることができた。作用素論、特に作用素不等式でのこれまでの知見がよく作用したと考えている。しかし、本来ならば、変数がすべての実数で2つのTsallis型相対エントロピーがどのようなふるまいをしているのかの考察は作用素論的には、極めて興味深い課題であるが、今回は、その成果が認められ、JMAAという雑誌に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究体制と研究成果のもと、申請者のヒルベルト空間上の作用素不等式の視点のもと、量子情報理論におけるダイバージェンスや相対エントロピーは、非可換ゆえに多くの定式化が提唱されている。その相互の違いについて、作用素不等式からの視点で、その作用素のスペクトルの範囲を基準にした評価式を構築したい。相互の評価やその違いは、多様な量子化の提案に対する一つの評価を与えるものと考える。そのことで、幾何学的構造を明らかにしたい。 研究実績の概要でも述べたように、2つの量子Tsallis型相対エントロピーはもちろん古典的な場合は一致する非可換版であり、その差異についての議論で、作用素論的な枠組みが有効に作用する。現在、すべての変数での評価は未解決であるが、正の数の場合、安藤‐日合型不等式が有効に作用していることが分かってきている。また、古田不等式と関連があることはよく知られていることであるが、最近の議論により、その事実が今回の評価にうまく作用をするのではないかと気づいた。また、量子Renyiダイヴァージェンスの提案も多岐にわたっているが、最近日合によりかなり詳しく相互関係が明らかになった。しかし、相互に関係がない場合もあり、その場合どの程度違いがあるのかという観点に対して、この作用素論的な考察は有効に作用すると考えられる。情報理論における様々な概念において注意される事柄にきちんと対応する作用素論側の定式化を次の最終年度に向けて、さらに精密に定式化する必要があると考えている。 また、情報幾何における測地線を含む幾何学的な考察が、行列幾何平均の一般に可逆でない場合の定式化に有効に作用することがわかったが、この方向の進化は情報幾何的な考察の枠組みに、作用素論における新しい取り組みを示唆しているようにも思える。この方向は作用素論における幾何学的構造の解明に役に立つと考えている。
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Research Products
(13 results)