ディラック作用素のレゾナンス分布

2021 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 19K03545
• Research Institution: Ehime University
• Principal Investigator: 伊藤 宏 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (90243005)
• Project Period (FY): 2019-04-01 – 2023-03-31
• Keywords: ディラック作用素 / シュレーディンガー作用素 / 波動方程式 / レゾナンス

Outline of Annual Research Achievements

課題研究は，遠方で発散するポテンシャルをもつディラック作用素のレゾナンスに関しての研究である．レゾナンスを解析するためには，非自己共役化したディラック作用素を扱う必要がある．しかし，ディラック作用素はシステムであり，その解析は複雑である．そのため，昨年度から当該年度にかけて，単独の作用素である非自己共役的なシュレーディンガー作用素の解析を行うことで，非自己共役作用素の解析方法を開拓することにしている．
摩擦項をもつ波動方程式の定常問題を考える．この問題で現れる作用素は，複素電場ポテンシャルに加え，(摩擦項から現れる）エネルギ－に依存する複素ポテンシャルをもつシュレーディンガー作用素である．この研究では，さらに磁場ポテンシャルが存在することも仮定した．したがって，摩擦項をもつ波動方程式の定常問題と電磁場をもつシュレーディンガー作用素を同時に扱うことになる．
主な問題は，次の問題である：散乱振幅の高エネルギーでの挙動から，電磁場および摩擦項を決定せよ．
当該年度において，適当な条件のもとこの問題を解決することに成功し，現在発表するための論文を作成している．昨年度までは，磁場を入れることが出来なかったが，詳しい解析を行うことで，磁場の再構成にも成功した．
結果を得るために重要なことはつぎのことである．(1) エネルギーが大きい場合には，シュレーディンガー作用素に対して極限吸収原理が成立ことを示し，散乱振幅が定義出来ることを示し，その表現を導きだした．(2) レゾルベントの高エネルギーでの挙動を導き出した．(3) 電磁場と摩擦項を含む量から，2つを分離する方法を得た．．

Current Status of Research Progress

3: Progress in research has been slightly delayed.

Reason

遠方で発散するポテンシャルをもつディラック作用素のレゾナンスは，伸張解析的方法で複素化されたディラック作用素の固有値として定義される．この研究の方法は，その作用素を複素化された2つの相対論的シュレーディンガー作用素の直和と摂動項の和に変換して，(1) 各相対論的シュレーディンガー作用素の解析を行う，(2) 摂動項の影響を調べる，というステップで行っている．特に困難な問題は，複素化された相対論的シュレーディンガー作用素の高エネルギーでのレゾルベントの漸近挙動である．そこで，遠方で減衰するポテンシャルをもつ場合に，その解析手法を確立して，その後に課題研究の問題に適用することを考えている．昨年度と当該年度の研究において，非自己共役作用素のレゾルベントの評価については，多くの知見を得ることが出来た．また，逆散乱問題に対する結果も得ることが出来た．現在作成中の逆散乱問題に関する論文の完成後には，もとのデイラック作用素や相対論的シュレーディンガー作用素のレゾルベントの評価に関する研究に進めることが出来ると思われる．しかし，予定では，当該年度中に逆問題の論文を完成させて，これらの研究に進んでるはずであった．磁場ポテンシャルの導入により，逆問題の解析が非常に複雑になり，論文作成が遅くなったのと，コロナ禍の影響で，対面での研究協力者や他の研究者との議論や情報交換が十分出来なかったことも進展の遅れの原因であると思われる．そのため，「やや遅れている．」と判断した．

Strategy for Future Research Activity

研究代表者が，研究協力者の協力を得ながら研究を進める．対面でのセミナーや研究会が安全に開催される場合には出席して，研究協力者や関連する研究を行っている他の研究者と情報交換や議論を行うことで，研究課題の進展を加速させる．また，可能なら出張して他の研究者と情報交換を行う．他の研究者に来てもらい情報交換を行うことも考えている．対面での議論などが出来ない場合には，オンラインで行う．また，対面またはオンラインで開催される研究会には積極的に参加して議論や情報交換を行う．さらに，必要に応じて，研究会を開催する．
昨年度と該当年度で詳しく調べた非自己共役作用素の高エネルギーにおけるレゾルベントの挙動の解析手法が，遠方で発散する相対論的シュレーディンガー作用素やディラック作用素の場合にも利用できるのかを調べる．
まず，遠方で発散する複素ポテンシャルをもつシュレーディンガー作用素のレゾルベントの解析を行い，その後，そこで確立した手法を用いて相対論的シュレーディンガー作用素やディラック作用素の場合に解析を行う．
固有値の漸近分布に関しては，通常の自己共役なシュレーディンガー作用素に関してはよく研究されているので，それらの手法を非自己共役な相対論的シュレーディンガー作用素やディラック作用素の場合に適用できるようにする．
レゾナンスの分布に関して結果が得られたら，研究会で発表し，論文を作成して投稿する．

Causes of Carryover

繊細な考えが必要な数学の研究では，お互いの考え方を研究者同士で対面で議論したり，情報交換することが必要である．そのため，相当額の旅費が必要で，研究費に計上していた．しかし，2年間のコロナ禍により，ほとんどの研究集会やセミナーなどが中止・延期またはオンライン開催になり，また，他の研究者のところへ訪問したり，逆にこちらに訪問してもらうことが困難になり，2年間の旅費が全く使われていない．このことが，次年度使用額が生じた理由である．
2022年度は社会活動が以前と比べ少しは活発になりつつあり，今後対面の研究会も多く開かれると思われる．また，研究者同士の訪問も行われていくことになると思われる．そのときには，旅費を用いて，安全に気をつけながら，出張を行ったり，他の研究者に来てもらうことにする．また，コロナの感染状況が悪化して，すべてオンラインになった場合には，オンラインに必要な機材などを購入することになる．