2019 Fiscal Year Research-status Report
境界上の相互作用に依って駆動される拡散系の力学系的研究
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19K03564
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
坂元 国望 広島大学, 統合生命科学研究科(理), 教授 (40243547)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 内部拡散 / 境界相互作用 / 非線形ロバン型境界条件 / Turing分岐 / パターンの線形安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、境界相互作用によって駆動される内部拡散系の力学系的な研究を目的とし、その題材を大きく二つの問題に分けて取り組む計画を立てた。 一つ目の問題は、2成分以上の内部拡散系が非線形ロバン型境界条件だけを介して相互作用する系におけるパターン形成現象の探究を目指すこと。二つ目の問題は、一つの成分vは内部拡散成分で、もう一つの成分uは、境界上の反応拡散系に従い、非線形ロバン型境界条件を介してuとvが相互作用する系のパターンダイナミクスを解明すること。 初年度(令和元年度)の研究では、二つ目の問題の研究に集中した。この問題に、さらに、境界上の成分uに対する反応項と、u,vの相互作用を表す境界条件の非線形項が逆符号を持つ場合を考察した。この状況下に於いて系は「質量保存則」を満たし、細胞における様々な分子種の相互作用として典型的に現れるメカニズムをモデル化していると想定されている。この系に対する研究成果として、パターン形成のオンセットとなる、Turing不安定化が起こることを証明した。すなわち、安定な空間一様な定常状態が、uの拡散係数がvのそれよりも小さくなる時、次々と高次のモードが不安定化して、空間非一様な安定モードの出現を示唆する数学的な結果を得ることができた。 これは、従来のTuring不安定化のメカニズムが、内部拡散-境界反応拡散-境界相互作用系にも拡張された形で機能していることを数学的に厳密に証明したということを意味する。しかしながら、従来のTuring不安定化との違いに留意する必要がある。安定な定数定常解の安定性は、従来の領域-境界全体で一様な摂動に関する安定性では無く、境界上で一様な摂動(モード)に関する安定性として解釈し直されなければならことは、従来の理論との特徴的な違いである。現象へのフィードバックとしては、今回の結果は、細胞極性の発現の芽を表すと解釈できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画目標の、粗、3分の1程度が達成されたと思われるから。すなわち、大きな2つ課題の内の一つ目の問題について山場となる結果が得られ、この問題の最終目標(弱非線形解析)の予備的な計算が形式的な漸近展開の手法によってあたりを付けて探って見ると、上手くいく可能性が出てきていることから、概ね順調に進展していると判断した。加えて、もう一つの問題(2成分以上の内部拡散系が非線形ロバン型境界条件のみを介して相互作用する系)に於いて質量保存則を満たす場合は、以前の研究課題で得られた成果から詳細な力学系的な結果(Turinng不安定化に関する結果と相空間における大域的ダイナミクスに関する結果)を得ているので、その結果と手法が一般の場合(必ずしも質量保存則が成り立たない場合)にも拡張・援用できると予想されている。以上の理由により、本研究計画は、現時点において、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画当初に掲げた二つの問題の内、二つ目の問題(一つの成分vは内部拡散成分で、もう一つの成分uは境界上の反応拡散系に従い、非線形ロバン型境界条件を介してuとvが相互作用する系のパターンダイナミクスを解明すること)に関しては、質量保存則が成り立つ系の場合には、線形レベルの解析を通して、Turing不安定化が起こることを数学的に示しているので、この不安定化が実際に空間非一様な定常解を分岐させるのか否かを決定するために、厳密な弱非線形解析を実行する。さらにこの同じ問題について、必ずしも質量保存則が成り立無い場合につて、すでに質量保存系について得られているTuring不安定化(線形解析)と同様のアイデアと手法を駆使して線形安定性を決定する作業を推進する。これが成功すれば、標準形理論を活用して分岐解の枝の出現方向を決定するための弱非線形解析を推進することが可能となる。この弱非線形解析の推進にあたっては、まず形式的な漸近展開の手法で当たりをつけて見通しがついた場合に、厳密な数理解析の作業に入る予定である。この形式的な漸近展開の手法は、粗問題なく遂行できると予想しているが、もしこの段階で見通しが厳しいようであれば、問題の最終解決は非常に難しいと思われるので、出発点に戻って新たなアイデアと手法を練り直す必要がある。この困難の実態・詳細が現時点では未知なので、それに対する具体的な対応策を明示することは現時点では差し控える。
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Research Products
(2 results)