2019 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
19K03572
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
愛木 豊彦 日本女子大学, 理学部, 教授 (90231745)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 自由境界問題 / 非線形放物型方程式 / 解の正則性 / コンクリート中性化過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、「コンクリート中性化過程(マルチスケールモデル)」と「微小領域における分子分離」を課題としている。以下、課題ごとに研究実績の概要を述べる。 1.「コンクリート中性化過程(マルチスケールモデル)」について 本課題の研究内容は3次元領域におけるコンクリート中性化過程を記述する数理モデルの導出とその数学的解析である。ここでは、コンクリート中性化過程における水分に対する質量保存の仕組みについて焦点を当てて考察している。我々が考える水分量保存のモデルは、質量保存の法則を表す非線形放物型方程式と相対湿度と飽和度の関係を表す自由境界問題との連立系である。この連立系の解の性質を調べるために、まず、自由境界問題の解と境界値や初期値との関係について考察し、境界値や初期値がある変数に依存しかつその変数について微分可能である場合、解もその変数に関し微分可能であることを示すことができた。 2.「微小領域における分子分離」について 本課題では、極微小な領域内に複数個の金属片を配置し、それ以外の部分に物質の溶液をおいた上で、金属部分に光を当て液体領域に温度勾配を生じさせると、物質の凝縮が起きるという現象を考察対象としている。このような温度勾配により濃度勾配が生じる現象はソレー(Soret) 効果と呼ばれ、交差拡散項をもつ拡散方程式で記述される。この現象では、熱伝導率が金属と液体で異なるため、熱伝導係数が領域全体では不連続となる。従って、それらの接触部分では、回折型境界条件を課すため、解の十分な正則性が期待できない。本研究では、この現象を記述する数理モデルを導出し、その問題の解の存在を証明するとともに、数値解析が可能となる近似問題も示し、その解の存在も証明した。さらに、近似問題に対する数値解析を実施し、数値的にではあるが、近似問題が元の問題の近似になっていることも示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述の2つの課題「コンクリート中性化過程(マルチスケールモデル)」と「微小領域における分子分離」と新たに考察対象とした課題に対する進捗状況を述べる。 1.「コンクリート中性化過程(マルチスケールモデル)」について 上で述べた自由境界問題の解の微分可能性に関する結果は、現在、論文としてまとめている段階である。さらに、この過程で解のより良い正則性が得られる可能性に気付くことができた。コンクリート中性化過程において、二酸化炭素と水分の拡散を同時に考察する系の考察が究極の目標であるが、現状は水分の拡散が扱えるようになった段階である。今年度示すことができた解の微分可能性に関する結果やそれを改良することができれば、コンクリート中性化過程を記述する系の解析を大いに進めることができそうである。つまり、本課題に対する研究は成果を着実にあげ、さらにこのモデルに関する次の課題が見つかるなど極めて順調に進んでいる。 2.「微小領域における分子分離」について 本課題については、成果を論文としてまとめ、それを出版したり、国際会議で成果を発表したりするなど十分な成果をあげることができた。 3.新たな課題について ゴムのような弾性体は局所的に見れば非均質であることが実験からも観察されており、その挙動を表した数理モデルへのシミュレーションが新たな研究課題となっている。また、ゴムの場合、歪みと応力の関係が線形ではないことから数学的にもその解析は重要である。そこで、まずは素材が均質であり、歪みと応力の関係が非線形な場合に対する数理モデルを構築した。このモデルに対し、偏微分方程式の立場からの考察が十分可能である見通しを得ることができた。このように極めて興味深く、本研究の課題でもある「非均質領域における偏微分方程式の解析」に位置付けられるので、引き続きこの課題についても研究を進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の3つの課題「コンクリート中性化過程(マルチスケールモデル)」「微小領域における分子分離」「非均質な弾性体」に対する今後の研究の推進方策を述べる。 1.「コンクリート中性化過程(マルチスケールモデル)」について まずは、自由境界問題の解のある変数に対する微分可能性の成果を論文としてまとめた後、その改良に取り組む。それと同時に二酸化炭素と水分の拡散を同時に扱える系の可解性についても考察する。 2.「微小領域における分子分離」について 本課題は一定の成果をあげることができたので、新たに見つかった課題に取り組む時間を確保するため、本課題に対する研究はひとまず終了する。 3.「非均質な弾性体」について まずは、均質な素材の動きを記述するために構築した数理モデルの解の存在や一意性を示す。既に、歪みと応力の関係を表す関数に対し、ある程度制限を設けた場合については、解の存在を示すことができている。解の一意性は標準的な方法が使えないため、共役の方程式を用いる方法が適用可能かどうか考察したい。一意性を示すことができれば、歪みと応力の関係を表す関数に対する制限を解除した上で、解の存在を示す。また、数値解析に関しては、これまで常微分方程式モデルを導出し、その解の存在と一意性や近似解の構成、及び近似解の収束を示しているので、それらを論文としてまとめる。 上記目標の実現や今後の研究課題発掘のため、スウェーデン・カールスタッド大学のMuntean教授と定期的にオンラインによるセミナーを実施し研究交流を推進する。そこには研究代表者が指導する博士課程所属の院生も参加し、共同研究を進めていく。また、新型コロナウィルス感染者増加による現状を踏まえ、予定していた国内の研究交流活動もオンラインによる開催方式を採用するなど、研究に遅延が発生しないようにする。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス発生の影響で、3月に出席を予定していた研究集会が中止になり、そのための旅費を使用できなかったため次年度使用額が生じた。今年度は、状況が改善次第、成果発表等の計画を見直す。
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Research Products
(11 results)