2021 Fiscal Year Research-status Report
Study on free boundary problems arising in mathematical ecology and related nonlinear diffusion equations
Project/Area Number |
19K03573
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山田 義雄 早稲田大学, 理工学術院, 名誉教授 (20111825)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 自由境界問題 / 反応拡散方程式 / 比較定理 / 解の漸近挙動 / 数理生態学 / 解の形状 |
Outline of Annual Research Achievements |
反応拡散方程式に対する自由境界問題は、外来生物の侵入現象をモデルに、生物の個体数密度と生息領域の変化を定式化した数理生態学由来の問題であり、活発に研究されている分野である。とくに興味深いのは、時間無限大となるにつれて、自由境界で囲まれた領域が空間全体に拡大し、密度関数が反応項の正値安定平衡点に広義一様収束するような spreading解の漸近解析である。 本研究では正値双安定項と呼ばれる非線形項を伴う問題を取り扱った。この非線形項は二つの正値安定平衡点を持つ関数であり、各安定平衡点に対応する二種類のspreading解をもたらす。空間一次元の場合、spreading解の中には段丘状のプロファイルを持つテラス解と呼ばれるものがあり、時間の経過とともに下層レベルでは小さい方の安定平衡値に近づき、上層レベルでは大きい方の安定平衡値に近づくこと、下層レベルの先端の拡大速度(=自由境界の拡大速度)と上層レベルの先端の拡大速度は異なることが示されていた。 前年度の研究では高次元空間における自由境界問題を球対称領域に限定、松澤寛氏(神奈川大学)、兼子裕大氏(日本女子大学)との共同研究の結果、下層レベルの拡大速度や解形状は小さい正値平衡点に対応する semi-wave 問題の解が漸近評価を与えること、上層レベルの拡大速度や漸近形状は二つの平衡点を結ぶ進行波解が漸近評価を与えることが調べられた。本年度の目標は一般の状況で解の漸近挙動を解析することである。一方、どんな初期条件の下でも、spreading解については時間の経過とともに自由境界は球面に近づくことが知られていた。したがって、解のプロファイルも球対称関数に漸近収束することが予想される。その証明には、比較原理が有効であるが、優解や劣解を繰り返し構成する、という精妙な解析が必要であり、まだ全体の証明には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
遂行中の研究課題は、正値双安定な非線形項を伴う反応拡散方程式に対する自由境界問題の解について、高次元空間における球対称の環境のもとでの漸近挙動の解析である。この研究は松澤寛氏(神奈川大学)と兼子裕大氏(日本女子大学)との共同研究により大きな成果が得られた。主要な結果は、時間無限大における解の漸近挙動は big spreading, small spreading, transition および vanishing と名付けられる4種類の現象に分類できたこと、および2種類のspreading 解に対して自由境界と解の形状に関する詳細な評価を求めたことである。なかでも、テラス解と呼ばれる big spreading 解について、詳しい漸近解析を行った。 得られた研究結果は論文 “A free boundary problem of nonlinear diffusion equation with positive bistable nonlinearity in high space dimensions I: Classification of asymptotic behavior,” および “…… II: Asymptotic properties of solutions and terrace solution,” にまとめた。第1論文は雑誌 Discrete & Continuous Dynamical Systems から本年度1月にオンラインで発表され、第2論文は投稿中である。本年度も新型コロナ感染予防のため、共同研究者間の対面での議論は避け、電子メールを通して論文執筆を続けざるを得なかった。現在は一般の初期条件下での解挙動を扱う第3論文を執筆準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
高次元空間における反応拡散方程式に対する自由境界問題に関して、主に正値双安定項を非線形項として伴うケースを集中的に解析した。とくに球対称の環境の下で、解の漸近挙動の分類とその評価を行い、ほぼ完全に 解決することができた。今後解決すべき課題は、一般の初期条件の下、解の時間無限大での漸近挙動の分類や自由境界・解の形状ついて詳細な漸近評価を導くことである。このためには、比較定理を繰り返し適用して、適切な優解や劣解をうまく構成することがポイントであると思われる。 新たに提起したい数理モデルは、共存できない競合二種の個体数密度と生息領域の変化を定式化した自由境界問題である。類似の問題は1980年代前半に故三村昌泰氏、四ツ谷晶二氏(龍谷大学)との共同研究において取り扱ったが、1次元の有界区間内の問題として考えた。そのため、生息領域が無限に拡がることがなく、spreading 現象をとらえることができなかった。新しい自由境界問題を1次元空間において説明すると、二つの競合種の生息区間が隣り合い、それぞれの生息区間の一方の端点は競合種がいない自由境界、他方は競合種のいる自由境界と考え、各自由境界の運動はStefan型の条件で支配されると仮定する。三種類の自由境界や二種類の個体数密度の運動の研究は数理モデルとしても現実世界に即応したものである。このような二種自由境界問題の解挙動を解析することは数学的にも生態学的にも興味深い問題だと思われる。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染予防のため、学会をはじめとする各種研究集会がオンライン形式で開催された。したがって当初予定していた、学会・研究集会参加のための出張旅費の使用がほとんどなく、21年度未使用額が生じた。 本年度は、対面形式の会議、研究集会が開催されると予想される。したがって、次年度研究経費は研究出張旅費やPC購入に使用の予定である。
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