2021 Fiscal Year Research-status Report
ロトカ・ボルテラ系における交差拡散極限が導く定常解の多層構造の解明
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19K03581
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
久藤 衡介 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (40386602)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 反応拡散系 / 分岐 / 楕円型偏微分方程式 / 非線形拡散 / 安定性 |
Outline of Annual Research Achievements |
有界領域において共通の資源を取り合う関係にある2種類の競争種にとって,合理的に資源を摂取するには,競争相手の種が多い場所ほど空間的拡散を促進させた方が好戦略に思われる.この戦略を「交差拡散」とよばれる拡散の相互作用を表す非線形項として,従来のロトカ・ボルテラ系に加味したモデルが,重定,川崎,寺本(1979)によって提唱され,現在では「SKTモデル」とよばれている.SKTモデルにおいては,定常問題の解構造の解明が重要な問題として残されており,本研究課題においては,交差拡散係数を増大させたときの,定常解の大域分岐構造の導出を主目標としてきた. 前年度までの研究によって,両種の交差拡散係数を同程度に大きくしたとき,ノイマン境界条件の下では,競争種どうしの空間的棲み分けは不完全排他の形で起こることが分かった,すなわち,片方の種の生存地域において,競争相手である他種のが,比較的少ないながらも生存している状況が定常解で再現された.さらに,非定数な定常解の集合は,定数解からのピッチフォーク分岐枝で構成されていることが分かった. 当該年度においては,ディレクレ境界条件の下で,両種の交差拡散係数を同程度の大きくすると,定常解の大域分岐枝は「競争種どうしの完全排他的な棲み分けを特徴づける部分」と「両種がともに領域の中心付近に小さいピークをとる小丘共存を特徴づける部分」が繋がる形で出現することが分かった.非線形楕円型方程式の解構造の観点では,小丘共存の部分は零解からの1次分岐枝で構成されていて,その枝から対称性を壊す2次分岐もしくは不完全分岐が起こり,完全排他の部分が2次分岐枝で構成されることを明らかにした. また,attractive transition 型の非線形拡散項を伴うロトカ・ボルテラ共生系の定常解の研究に従事し,非定数定常解が出現するメカニズムを分岐理論の立場で明らかにしている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目標のひとつは,SKTモデルにおいて両種の交差拡散係数が大きいケースで定常解の大域分岐構造を明らかにすることであった.前年度の研究では,両方の交差拡散係数を同程度に無限大に発散させた際に,定常解集合が適切な関数空間の中でコンパクト性を有し,極限系とよばれる積分条件付きの非線形楕円型偏微分方程式の解に漸近することを証明した.さらにその極限系が競争種同士の不完全排他の棲み分けを特徴付ける大域分岐構造をもつことを証明した.これらの,成果は本研究の目標達成に対する大いなる進展であったが,当初に予想していた,定常解の多層構造がノイマン境界下では現れないことも示唆していた. 該当年度においては,ディレクレ境界条件の下で,両方の交差拡散係数を同程度に無限大に発散させると,定常解の収束先を特徴付ける極限系が2種類あることを証明した.この成果は,本研究の当初の予想であった「SKTモデルの定常解の多層構造」がディレクレ境界条件の下では出現することを明らかにしている.さらに詳しく,2種類のそれぞれの極限系の解集合が,零解からの1次分岐枝である「小丘共存状態」と1次分岐枝上の分岐点から分岐する2次分岐枝である「完全排他型の棲み分け」を特徴付ける形で理論的に得られた.実際に,大学院生の協力の下で実施した Matlab のパッケージである分岐解析ソフト pde2-math を用いた数値シミュレーションでは,上述の定常解の大域分岐枝の多層構造を観測している.そういった意味で本研究課題は成果創出の観点では順調に進展している. ただ,上述の研究成果を国内外に口頭発表する機会は,研究計画時に発表予定であった国際シンポジウムや学会の多くが中止もしくは延期になったこともあり,オンライン発表分を差し引いても予定数を下回っている.
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で述べたように,2021年度においては,ディレクレ境界条件の下で,両方の交差拡散係数を無限大に発散させると,定常解の大域分岐枝は二層構造をもつことを明らかにした.この研究成果については,現在のところ国際的な学術誌への投稿にむけて,論文を執筆中にある.その意味で,目下の研究の推進方策は,この論文の投稿である.純粋数学的な記述はもとより,本研究課題の予算を充てて購入したワークステーションを駆使した数値シミュレーションも掲載の上,偏微分方程式と数理生物学の両面で先端的な学術誌への掲載を目指す. また,2022年度においては,国内の研究集会や学会が対面で実施される見通しがややあるので,本研究課題で得てきた研究成果を積極的に口頭発表していく目論見である.また,本研究の研究計画時に予定した国際的な研究交流については,やはりコロナの影響でこれまでそのほとんどを断念せざるを得ない状況であったが,今後は,限定的でも国際的な交流を積極的に推進する予定である. 本研究課題においては,これまでSKTモデルの定常問題を主に議論してきたが,今後は非定常問題の研究も視野に入れたい.まずは,本研究で得られた定常解に対する安定性解析を種に,近平衡系の解析から,SKTモデルの非定常問題の解が織りなす時空間ダイナミクスを引き出すことが目標となる.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,当初の研究計画で予定していた研究集会や学会での口頭発表の多くが断念を余儀なくされた.ただ次年度においては,研究集会や学会が対面で実施される見通しがやや立っている.その意味で,次年度使用額の多くは,国内の研究集会や学会等における口頭発表のための予算に充てる予定である.
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Research Products
(7 results)