2021 Fiscal Year Research-status Report
Mathematical Analysis of Schroedinger equations
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19K03589
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
谷島 賢二 学習院大学, 理学部, 研究員 (80011758)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | シュレーディンガー作用素 / 散乱の波動作用素 / 時間周期量子力学 / ルベーグ空間 |
Outline of Annual Research Achievements |
次の2つの問題を重点的に研究し、以下の成果を得た。(1) 2次元あるいは4次元空間におけるシュレーディンガー作用素の散乱理論における波動作用素のルベーグ空間での連続性を研究し、連続あるいは不連続となるルベーグ空間の指数を決定する問題、(2) 時間に依存するポテンシャル、特に時間に関して周期的に依存するポテンシャルをもつシュレーディンガー方程式の初期値問題の解のエネルギーが時間∞において無限大となるか否かの解明。 (1) 波動作用素がルベーグ空間において連続となるか否かの問題は研究代表者の1996年の論文において初めて取り扱われた。この問題は2020年までには、空間次元が2、4以外の場合にはシュレーディンガー作用素が連続スペクトルの閾値に特異性をもつ場合を込めて、空間次元が2、4の場合には閾値に特異性がないと言う仮定の下でほぼ解決された。令和3年度の研究ではこれまで未解決であった、空間次元が2あるいは4でシュレーディンガー作用素が連続スペクトルの閾値に特異性を持つ場合、特異性の種類と波動作用素が連続となるルベーグ空間の指数の間の関係を完全に明らかにした。2次元での結果は日本数学会欧文雑誌、4次元の場合はElliott Lieb教授傘寿記念論文集(ヨーロッパ数学会)に出版される。 (2) 時間周期的なポテンシャルをもつシュレーディンガー方程式の数学的問題に関する著書を準備している。このための文献調査を行ったが、様々な問題が未解決で、出版のためにはこれらの諸問題の解決が必要であることが判明した。このため、まず時間に依存するポテンシャルをもつ多体シュレーディンガー方程式の初期値問題の解のエネルギーが時間大域的に有界にとどまる否かを研究した。ポテンシャルが適当なルベーグ空間において時間に関して一様に小さい場合にこれを肯定的に解決したが、一般の場合はまだ未解決である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究代表者はシュレーディンガー作用素の散乱理論における波動作用素がルベーグ空間において連続となるか否かという問題を1996年の論文において初めて研究した。幸い問題の重要性が認識され、多くの研究者の研究への参画があって、今日までに多くの研究成果が得られたが、空間の次元が2,4でシュレーディンガー作用素が閾値に特異性を持つ場合は特に困難で問題は未解決のままであった。これを令和3年度中にルベーグ空間の指数が端点の場合の評価を除いてほぼ完全な形で解決ができた。これは研究代表者にとっては予想外の成果で, 研究は当初の計画以上に進展したと考える。また時間に依存するポテンシャルをもつ多体シュレーディンガー方程式の初期値問題の解のエネルギーが時間大域的に有界であることが想定以上に簡単に証明できたのも想定以上の成果であった。
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Strategy for Future Research Activity |
1)シュレーディンガー作用素に対する散乱の波動作用素のルベーグ空間における連続性に関する研究で今日でも未解決となっているのは、ルベーグ空間の指数が1あるいは∞のの場合である。この問題を再考する。シュレーディンガー作用素が閾値に特異性を持つ場合、波動作用素はこれらの指数のルベーグ空間においては不連続であるが、より弱い意味での連続性が成立すると予想される。例えばハーディ空間からBMP空間、あるいは弱ルベーグ空間への作用素として考えた時である。この予想が成立するか否かを解明する。 2)シュレーディンガー作用素より一般の楕円型作用素に対する散乱理論における波動作用素がルベーグ空間において連続となるか否かについての研究がごく最近始まった。特に重ラプラシアンのポテンシャル摂動による散乱理論の波動作用素については、次元を制限し、閾値における特異性のスペクトルの不存在を仮定して、いくつかの研究結果が米国・中国から発表された。しかし、この問題の研究はまだ始まったばかりで多くの問題が未解決である。この研究に参画していく。 3) 時間周期量子力学系に関する著書の出版のための研究を行う。まずは多体系の時間周期ポテンシャルによる散乱問題を研究する。この問題はその重要性にもかかわらず、粒子数3の場合を除いては, Aarhu大学のSkibsted、Jakob両教授の最近の準備的研究以外に殆ど研究成果がない。また束縛状態の時間周期摂動に関する安定性・不安定性の問題についても研究成果が乏しい。これらの問題にも取り組み著書の出版にこぎつきたい。 4) 時間依存型のシュレーディンガー方程式の基本解の正則性ならびに非正則性に関する研究を続けていく。とくに空間1次元の場合の基本解の非正則性に関する研究代表者の過去の研究結果を空間多次元に拡張することを試みる。
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Causes of Carryover |
数学研究の進展のために決定的に重要なのは、研究者間の多くの討議あるいは共同研究であるが、コロナの蔓延によって2年以上にわたって国内外において研究者の往来が制限され、対面式によるセミナー、研究集会はことごとく中止、延期となり、Zoom による会議となった。このため国内外からの研究者の招聘、国内外の研究者への訪問のための旅費・滞在費の使用が全くなかった。これが多額の次年度使用額が生じた原因である。
今年度は国内外の入出国制限の緩和が予想される。また国内の対面式研究集会の開催が多くなることが期待される。活発で有益な研究討議のため次年度使用額の範囲内での旅費への支出を考えている。また更新時期のきたノートパソコンの更新も行う。
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