2023 Fiscal Year Research-status Report
Mathematical Analysis of Schroedinger equations
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19K03589
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Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
谷島 賢二 学習院大学, 理学部, 研究員 (80011758)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | シュレーディンガー作用素 / シュレーディンガー方程式 / 散乱の波動作用素 / 点相互作用 / ルベーグ空間 / 断熱近似 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題「量子物理学の数理解析」についてのいくつかの問題を研究して、以下の成果を得た。1)2次元ならびに4次元空間におけるシュレーディンガー作用素の散乱理論の波動作用素が連続となるルベーグ空間の指数を、シュレーディンガー作用素のスペクトルが閾値において特異性を持つ場合に、端点$p=1$ならびに$p=\infty$を除いて完全に決定し、波動作用素のルベーグ空間における連続性の問題を次元2,4の端点を除いて任意次元の空間において解決した。この結果は広く応用されている。シュレーディンガー作用素の任意の関数のルベーグ空間の間の連続性が自由シュレーディンガー作用素の関数の解析に帰着されるからである。また点相互作用をもつ2次元シュレーディンガー作用素に対する同様な問題をCornean, Michelangeli とともに解決し、点相互作用に対するこの問題もすべての空間次元において決着させた。2) 時間に依存した相互作用をする外部電磁場中の量子力学的多体粒子系の運動を記述するシュレーディンガー方程式が、粒子系の運動を一意的に決定するための十分条件を、物理学で現れる殆どの場合に適用できる一般的な形で与え、形式的に行われてきた多くの議論に数学的な基礎を与えた。3)点相互作用素をもつシュレーディンガー作用素の波動作用素が通常のシュレーディンガー作用素の波動作用素の極限であることを Galtbayar とともに証明した。4)一様電場中の量子を記述するシュレーディンガー作用素を有限階作用素で摂動した時に現れる複素レゾナンスの弱電場極限における集積点は極限作用素のレゾナンスとはならないことを Jensen とともに証明した。5)Galtbayar ならびに Jensen とともにスペクトルが点スペクトルから連続スペクトルへ変化する可解モデルにおいて量子力学的断熱近似が破綻することを証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1)シュレーディンガー作用素の散乱問題における波動作用素のルベーグ空間における連続性の問題が新しいアイデアを用いて思いがけず簡明に解決できたのが大きい。これは a) 波動作用素のあらたな表現式、すなわち基礎となる作用素(基本作用素と呼ぼう)の平行移動の適当な重み関数による重ね合わせとして表現する式がえられたこと, b) 基本作用素が良く知られた特異積分作用素の和として表現され、調和解析的手法によって端点を除くすべての指数をもつルベーグ空間において連続となることが示せたこと, さらに c) スペクトルの閾値におけるレゾルベント解析が Jensen-Nenciu の補題によってスムースに行えることが分かったことよる。2) 研究代表者が1998年に発表した時間に依存するポテンシャルをもつシュレーディンガー方程式に対するユニタリーな発展作用素の構成に用いたStrichrtz不等式を、部分系の振幅関数のなすヒルベルト空間に値を取る関数に自然に拡張することによって、外部電磁場中の時間に依存した相互作用をする多体粒子系に対するシュレーディンガー方程式のユニタリーな発展作用素がほぼ自動的に構成できたのがこの問題を早期に解決できた理由である。3) 点相互作用系の解析には2017年までの G. Delantonio, A. MichelangeliあるいはA. Tetaとの共同研究において集積された多くの研究情報が役だった。また共同研究者H. Cornean が統計力学の研究において用いたアイデアによる手助けが大きかった。 4, 5) のレゾナンスの不安定性の問題、断熱近似の破綻の問題の解決はA.Galtbayar や A. Jensen との共同研究の成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
1)シュレーディンガー作用素の散乱問題における波動作用素が端点指数$p=1$あるいは$p=\infty$をもつ2,4次元のルベーグ空間において連続であるか否の問題が未解決のまま残ってしまった。これは研究業績の項でのべた結果が、調和解析的手法によって得られているためである。調和解析は端点指数のルベーグ空間における解析のためにはほぼ無力で、端点解析には波動作用素を積分作用素として表現する積分核の大きさを評価して実解析的な手法を用いるしかない。一方、端点での評価が得られれば、この結果の応用範囲は格段に広がる。新しい手法を開発してこの端点問題を解決したい。
2)研究業績の項でのべた、一意的に存在するシュレーディンガー方程式の発展作用素に普遍的に成立する様々な性質を研究したい。特に外部電磁場や粒子間相互作用が時間に周期的に変動する場合、それらがどのような条件を満たせば粒子系のエネルギーが時間無限大において有限にとどまるかを明らかにしたい。
3)互いに点相互作用する3個以上の粒子を記述するシュレーディンガー作用素を下に有界な自己共役作用素としての実現することは1960年代の Faddeev-Minlos の研究以来の難問であるが、最近 A. Teta を中心とするイタリアのグループによってこの問題の研究に進展があった。最新の研究情報を取得してこの問題の研究を進めたい。
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Causes of Carryover |
研究代表者の脊椎間狭窄症の悪化とウクライナ・ロシアの戦争による旅行時間の大幅な増加があったため、2023年夏に予定していたイタリアでの研究集会への参加を取りやめた。このため旅費の支出が予定より大幅に減少した。2024年度においては国内外の研究集会やセミナーに出席するための旅費、ならびにGaltbayar教授との共同研究のためモンゴル国立大学を訪問し、また同教授を学習院大学に招聘するための旅費を支出する予定である。また余裕があればオールボルグ大学の Jensen教授からの研究情報取得のため謝金を支出したい。
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