2019 Fiscal Year Research-status Report
A study on the innovative nature of Seki Takakazu's mathematics: centering on his theory of equations
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19K03609
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Research Institution | Yokkaichi University |
Principal Investigator |
小川 束 四日市大学, 環境情報学部, 教授 (90204081)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森本 光生 四日市大学, 関孝和数学研究所, 研究員 (80053677)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 関孝和 / 方程式論 / 病題 / 近世日本数学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的の一つとして関孝和の方程式論を中心として関の数学の革新性を東アジア数学史の中に位置づけることを目指しており,そのために2019年度は海外の研究者との交流を進めた.まず5月,中国・上海交通大学において関孝和の方程式論を中心にした講演を行い,関が東アジアにおいて方程式そのものを研究対象とした初めての数学者であると指摘した.また8月には韓国・全北大学校において同様の発表を行った.ただし,こちらでは関による「病題」(一意的な解が存在しない問題)の処理を中心に述べた.これらの会議に参加していた各国の研究者によれば,中国や韓国をはじめヨーロッパに於いても,病題の分類,病題の解消を考察した数学者はいないようであった.病題を分類し,分類群ごとに病題を一意的な解を持つように統一的に改定するという問題意識は世界の数学史においても特殊である.その後の現代数学までの歴史をみても,いわば近世限りの思想という点で特異なものである.このような数学思想が中国や西洋に出現せず,日本にのみ出現した背景,その展開は日本だけでなく世界の数学史においても数学文化の偏在性を示すものとして研究する意義を有することを再確認できた. また,本年度は『大成算経』巻一の英訳を完成した.『大成算経』巻一は初等的な計算法を整理して述べたものであり,数学的には深い興味を呼び起こすものではない.そのためにこれまで看過されてきた.しかし,極めて高度な水準に達していた関の方程式論とともに『大成算経』を構成していることから,これを無視するのは適切ではない.そこにはいわゆるアルゴリズムを述べるという姿勢を読み取ることが可能である.この点から,直接方程式論を述べた部分だけでなく,全体を把握することが必要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ,当初挙げた目的4項目の内,(1)」『病題明致算法』,「大成算経』などにおける判別式の利用技術,「分術」の概念を解明し,その革新性を新たに明らかにする」点に関しては,『病題明致算法』の一応の現代語訳を完成した.原著作に一部分論理的な不備があり,未だ理解できない点がある.関孝和は当然何らかの確信を持ってそのように記述したと思われるから,そのような厳密でない部分を現代数学の立場から批判するのは必ずしも数学史の立場からは望ましいことではない.次に挙げた(2)「『発微算法』,『解隠題之法』,『解伏題之法』,『開方飜変之方』,「題術辯議之法』,『病題明致之法』,『大成算経』など関の方程式に関する著作を検討して,その実像を明らかにする」点に関しては,すでに多数の研究が行われているのでそれを参照,検討するにとどまった.管見の範囲では『大成算経』については未だ研究は十分でないことに留意する必要がある.(3)「関孝和の方程式論を中心として関の数学の革新性を東アジア数学史の中に位置づける」点に関しては,国際研究集会における各国の研究者との交流を通じて,儒学思想,数学の社会における意義,数学者という存在のありかたなど,検討すべきいくつかの方向性を得ることができた.なお,海外の研究者が関の革新性に関して必ずしも十分な知見を有していないことも知ることができた.この点に関しては議論を深めるためにも協働が望ましいが,研究期間が限られているため,今回の感触に基づいて引き続いて研究を進める必要がある.(4)「関孝和数学の革新性を歴史教育,数学教育に携わる教育者が正確に理解できるように提示する」点に関しては,高等学校の先生方にも協力を求めることも重要だと判断して,現在協力を打診中である.
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Strategy for Future Research Activity |
当初挙げた本研究の目的に基づいて研究を進めることで問題は生じていない. まず,当初の研究目的(1)および(2)に関連しては『大成算経』を視野に入れたい.『解隠題之法』,『解伏題之法』をはじめとして,関孝和の方程式論について関しては多数の論文が発表されてきた.しかしこれまで『大成算経』の「病題定議」は放置されてきた観がある.単独に存在する『病題明致算法』と『大成算経』「病題定議」との比較作業も行われていない.そこでまず『大成算経』「病題定議」の検討に取り組みたい.数学的に難解な部分もあり,分担者の協力も引き続き仰ぎたい.『大成算経』は現在20本が知られており,本来はその全体の校合をすべきであるが,今回は断念して,もっとも関に近いと思われる榊原霞洲関連写本(南葵文庫旧蔵,東京大学総合図書館)を利用する.本写本は巻数表示がなく,一般に流布した20巻本との関係も重要な問題である.可能ならば若干の比較作業は行いたい.さらに(4)として挙げた「関孝和の数学の革新性を歴史教育,数学教育に携わる教育者が正確に理解できるようにする」点に関して,何らかの資料作成の準備を始めたい.その際,高校の現職の先生方の協力も得たいと思っており,現在打診中である.研究の社会還元の観点から,教育関係者に受け入れられる形態での提示も重要だからである.なお(3)の「関孝和の方程式論を中心として関の数学の革新性を東アジア数学史の中に位置づける」点については中国,韓国数学史に関する管見の範囲での背景知識に基づいて引き続き研究をすすめる.
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Causes of Carryover |
本年度行った海外出張2回のための航空券代が安価に済み,また,英文校閲に関わる外国人への謝金等人件費が不要であったため次年度使用額が生じた. 次年度改めて,必要な国内外出張旅費および英文校閲に対する謝金に充当する.
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