2020 Fiscal Year Research-status Report
構造化個体群ダイナミクスにおける基本再生産数理論の研究
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19K03614
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
稲葉 寿 東京大学, 大学院数理科学研究科, 教授 (80282531)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 年齢構造 / 感染症モデル / 免疫ブースト / 実効再生産数 / COVID-19 / 検査 / 隔離 / アロンモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
[1] 免疫状態の強化と減衰を考慮した年齢構造化感染症モデルの研究: ホスト個体群における免疫状態のダイナミクスは感染症の流行において重要な役割を演じている。1980年代に現れたアロンのマラリアモデルにおいては,免疫ブースト効果が再感染によって免疫時計(回復からの経過時間)が零にリセットされるという境界条件によって表現されている。このアロンー稲葉モデルにおける基本的仮定は,ブーストされた個体は,症候性感染から回復したばかりの個体と同じ水準の免疫性を得ると言うことである。大桑,國谷両氏との共同研究においては,この仮定を緩め,免疫ブーストによって免疫時計は再感染発生時点におけるよりも前の任意の時間にリセットされるとした。免疫レベルが回復齢とともに単調減少しているのであれば,再感染によって,症候再感染からの回復から得られる最大の免疫レヴェルから再感染時点のレヴェルまでの任意のレベルの免疫性が,ある確率で得られることをこの仮定は意味している。我々は,このモデルの数学的適切性を示し,初期侵入条件,エンデミック定常解の存在条件を検討した。リアプノフーシュミットの議論によって,基本再生産数が1を超えるときのエンデミック定常解の分岐の方向を考え,後退分岐が出る必要十分条件を与えた。
[2] 新型コロナ流行の抑制施策の効果についての研究:我々はCOVID-19における大量テストと隔離の効果を検討するためのモデルを構成した。未症候性感染を考慮したモデルにおいて,実効再生産数を理論的に定式化して,数値計算によって,実効再生産数が検査率の下に凸な減少関数であることを示した。これは検査率が小さい段階では,検査率上昇が実効再生産数の低下に対して非常に有効であることを意味している。さらに,もしも大量テストと検査隔離がなければ,緊急事態宣言の解除とともに,再流行が起きるであろうことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題においては,生物個体群ダイナミクスを微分方程式あるいは積分方程式,関数方程式によりモデル化したうえで,関数解析的,力学系的手法を用いてその性質を調べる構造化個体群ダイナミクスの数学的理論の開発,とくに個体レベルの異質性,履歴および環境変動を反映できるように理論を発展させることが目標であった。まず時間変動環境における個体群に対する基本再生産数の理論に関しては,発展半群理論にもとづいて,非自律系を時・状態空間における自律問題として扱うことで,基本再生産数の閾値性を変動環境において確立することができた。また非自律的非線形系で表現される集団の絶滅と存続の条件に関しても,上記で定義された基本再生産数が閾値条件として機能することを,時間周期系におけるエンデミック解の存在条件として明らかにした。ついで個体レベルにおける内的状態や履歴を反映するモデルとして,アロンのマラリアモデルをとりあげ,年齢構造化個体群モデルとして定式化して,免疫のブーストと減衰の効果を考慮したモデルを構成し,定常解分岐が前方分岐か後退分岐かを決定する条件を明らかにした。この方法そのものも,発展方程式モデル一般に適用できるように定式化している。免疫状態の分布が感染症流行においてキーとなる役割を演じていると考えられることから,こうした免疫ダイナミクスを考慮したモデルは今後ますます重要になると思われる。一方,おりから生起した新型コロナ流行問題に対処するために,当初の予定を変更してCOVID-19のモデル化と解析をこなったため,一次同次非線形系に対する基本再生産理論の構成課題は次年度へ先送りすることとなった。しかし,新型コロナ流行のモデルによって,社会的距離政策とともに,大量検査と隔離の過程を流行ダイナミクスに実装することで,実効再生産数を臨界値未満に抑制することが非常に重要であることを示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
[1] COVID-19のパンデミックは数年間は継続するすると考えられる。本研究課題になるべくそう範囲で,新型コロナ流行の抑制政策に寄与できるようなモデル構築と解析を考えていくことを一つの課題としたい。とくに,内的構造を考慮して,体内におけるウィルス変動を反映した年齢構造化モデルによって,検査・隔離モデルの精密化を図ることが考えられる。 [2] 線形化のできない一次同次の非線形作用素に対してThiemeによって提案された,基本再生産数と類似の指標は,離散時間モデルをもとにして考えられているが,それを連続時間モデルへ拡張して,個体群の絶滅と持続の閾値になることを示す。一次同次非線形性は両性人口モデルや性的感染症モデルにおいてよく利用されるものであるから,連続時間モデルへの拡張は基本再生産数理論の一般化として非常に重要である。自律的なシステムからはじめて,さらに時間依存の一次同次システムにおける基本再生産数理論を考察する.
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Causes of Carryover |
新型コロナの流行により,海外および国内の研究集会参加が不可能となり,旅費分の執行が出来なかった。一方,リモートによる研究環境の整備が必要であるため,今後は必要な機材などの調達,更新に使用する予定である。国内,国外の集会に関しては,感染症流行の動向を見極め,可能になり次第,参加を検討する。
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Research Products
(15 results)
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[Journal Article] Should a viral genome stay in the host cell or leave? A quantitative dynamics study of how hepatitis C virus deals with this dilemma2020
Author(s)
S. Iwanami, K. Kitagawa, H. Ohashi, Y. Asai, K. Shionoya, W. Saso, K. Nishioka, H. Inaba, S. Nakaoka, T. Wakita, O. Diekmann, S. Iwami and K. Watashi
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Journal Title
PLoS Biology
Volume: 18(7)
Pages: -
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Int'l Joint Research
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