2019 Fiscal Year Research-status Report
熱力学関数の操作的拡張にもとづく非平衡構造形成の記述
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19K03647
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中川 尚子 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (60311586)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 非平衡定常状態 / 変分原理 / 浸透圧 / 引き込み転移 / エントロピー / 大域熱力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
温度の異なる二つの熱浴により駆動される単成分流体熱伝導系を考える。温度差が小さい線形応答領域では、一般に局所平衡が良い記述を与えることが知られている。この空間非一様な非平衡定常状態を特徴づける唯一の温度として、大域温度を提案した。この大域温度、および局所熱力学量の空間積分から自然に定義される大域熱力学諸量を採用して、平衡系の熱力学構造が熱伝導状態に拡張できることを示した。また、この熱力学的枠組みに則った新しい変分原理を提案し、これによる具体的現象の予言を行った。それによると、熱伝導下では、気液界面付近で過冷却気体が安定化するという結果を得た。これらの詳細を Global Thermodynamics for Heat Conduction Statesとして統計力学の専門誌であるJ.Stat.Physに出版した。 このような変分原理が非平衡定常状態を決定する実例を探索するために、半透膜で区切られた2成分流体系を取り上げ、熱伝導下での浸透圧値を調査した。分子動力学計算で調査できる小さなサイズの系でも有限サイズ効果などを見極めることができた。現時点までに2成分流体の状態方程式や比熱の関係式を数値的に決定し、熱伝導下での温度や密度プロファイルから局所化学ポテンシャルを推定することができた。これらの結果は物理学会で報告した。 局所平衡が重要でない非平衡系も大域的な熱力学構造が有するか検討するために、無限範囲相互作用をする非平衡振動子系(蔵本モデル)の数値実験研究を行った。振動子系をランジュバン熱浴と接触させ、平衡系の平均場XYスピンから操作的に徐々に蔵本モデルに近づけた。このとき系から熱浴に流れる熱流を計測し、拡張クラウジウス関係式を適用して非線形振動子系のエントロピーを決定した。この結果は物理学会で報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今後の研究計画の中心をなす非平衡定常状態記述の理論基盤を構築できた。また2成分流体系の分子動力学計算研究と蔵本モデルの過剰熱測定法の数値的実装が進み、平成31年度の交付申請書に記載した内容を順調に消化している。
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Strategy for Future Research Activity |
二つの熱浴に接する熱伝導系で構築した大域熱力学を、エネルギーを保存しながら熱伝導する系(平衡系の断熱設定に相当)や定常粒子流がある系に拡張するための理論研究を行う。とくに定常粒子流がある場合は、気液界面で定常的に潜熱が発生している。この定常熱が気液界面付近の気体や液体の特性にどのような影響を及ぼすか、先に提案している過冷却気体の安定化との関係を探索しながら研究を進める。 2成分流体系では、流体力学記述と大域熱力学的記述がもたらす熱伝導下定常状態について理論予想を行い、分子動力学計算が実現する非平衡定常状態との比較を行う。この作業を通して熱伝導下浸透圧を決定する論理を探る。非線形振動子系の大域熱力学構造を探索する研究では、非平衡度の一次および二次の精度でエントロピーを決定できる2種類の拡張クラウジウス関係式を用いることにより、蔵本モデルの特徴的転移である引き込み転移における非線形非平衡性の重要性を数値化する試みを行う。
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Causes of Carryover |
令和1年度に予定していた出張が取りやめになった。この余剰予算は令和2年度に執筆予定の論文校正費として計上する予定である。
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Research Products
(13 results)