2020 Fiscal Year Research-status Report
熱力学関数の操作的拡張にもとづく非平衡構造形成の記述
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19K03647
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
中川 尚子 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (60311586)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 非平衡定常状態 / 相加性の破れ / エントロピー原理 / 大域熱力学 / 混合エントロピー |
Outline of Annual Research Achievements |
気液共存をはじめとする種々の二相共存状態や、膜により構造を課された多成分系など、空間的に非一様な構造を持つ熱力学系を対象とし、大域的な熱力学構造について研究を進めている。2020年度は以下の4項目について研究を行い、全項目の成果を物理学会にて口頭発表した。 (1)熱伝導下気液共存状態の大域的な熱力学構造:系の両端で流入出する熱流を完全に等量に制御することにより熱伝導下エネルギー保存系を設定し、エントロピー最大原理と熱力学基本関係式を満足させるエントロピー関数を理論的に探索した。気液共存状態について、エントロピーの役割を担う関数として非相加的な関数を同定した。現在、英語論文を執筆中である。 (2)多成分溶液の標準エントロピーを決定する数値実験プロトコルの作成:多種多様な多成分溶液の物性を比較するには「標準」熱力学量が必要である。本研究では、揺らぐ熱力学や情報熱力学の知識を利用し、分子動力学計算による熱力学測定だけから多成分溶液の標準自由エネルギーを決定する方法を作成した。この過程で、統計力学で要請されている分子の不可弁別性を熱力学測定により検証することに成功した。現在、英語論文を執筆中である。 (3)半透膜で仕切られた二成分溶液が示す浸透圧:熱伝導下二成分溶液に大域熱力学を適用し、浸透圧が平衡からどのように変化するかの理論予想を行い、その結果を検証するために大規模数値実験を開始した。10万粒子までの数値実験を実行し、有限サイズ効果や系の特性による結果の違いを検討中である。 (4)過剰熱測定による非線型振動子(蔵本モデル)のエントロピー決定と引き込み転移の特性: 蔵本モデルを熱浴と接触させ、平均場XYスピンの秩序=無秩序転移と蔵本モデルの引き込み転移を、熱測定により決定したエントロピーと比熱により比較した。蔵本モデルの非平衡性により転移点付近での揺らぎの性質がわかることを見つけた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
大域熱力学の枠組みをエネルギー保存する系にまで拡張できた。これは平衡熱力学での断熱環境に対応する設定で、枠組みの基盤となるものである。エントロピーの非相加性という非自明な特性が導入された一方で、熱伝導下の定常状態は環境設定によらず一意であるという熱力学的等価性が示され、大域熱力学の整合性と強力さを明らかにすることができた。エントロピー最大原理と自由エネルギー最小原理の両者が整合的に熱伝導下に拡張されたので、広い応用範囲を想定することが可能になってきている。分子動力学計算を利用した混合系の研究では、大域量を吟味検討していくための方法論を作成できた。これにより、今後、複雑な応用的設定でも熱力学構造を検討できる基盤を作ることができた。非線型振動子系の熱力学量決定の研究も順調に成果を積み重ねている。
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Strategy for Future Research Activity |
熱伝導系の定常状態を決定するための熱力学的変分原理が、より汎用性の高い方法論となる潜在性を持つかについて検討を重ねる。そのために、(1) 多成分系や内部構造を持つ系に拡張する方法を探索する、(2) 定常状態決定の変分原理を、物理的実在である揺らぎとの関係性の視点から研究し、非平衡統計力学との接点を見出す、(3) より非平衡度の高い状況に拡張する、などを試みて行く。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により国内外への出張が全面的に中止となったことによる。余剰予算は現在執筆中の論文のオープンアクセス代として計上する予定である。
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Research Products
(9 results)