2022 Fiscal Year Research-status Report
Statistical mechanics of nonlinear evolutionary dynamics with a large degree of freedom
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19K03650
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
時田 恵一郎 名古屋大学, 情報学研究科, 教授 (00263195)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 腸内細菌叢 / Lotka-Volterra方程式 / レプリケーター・ミューテーター方程式 / 種間相互作用 / ランダム行列 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、物理学、生物学、情報科学、社会科学、経済学などの様々な分野で研究されている巨大システムに注目し、多種多数の主体が複雑な相互作用を介して影響し合いながらその個体数などを変動させ時間発展する大自由度非線形進化力学系の巨視的性質を、統計力学的手法や計算物理学的手法を用いて解明することである。具体的には、生態系、免疫系、経済システムなどの様々な現実の進化力学系に共通に見出されてきた多様性のパターン、種個体数分布、種数面積関係などの巨視的なパターンが生み出されるメカニズム、特に環境や種などの性質を表すパラメータに対する依存性を明らかにしつつある。2022年度においては、進化・適応を繰り返す膨大な種類の腸内細菌叢モデルを解析した。特に、マウス腸内細菌叢のOTU存在量データを用いて、対応する多種Lotka-Volterra方程式のパラメーター推定を行った先行研究のパラメータ値を解析した。その結果、マウス腸内細菌叢は相利的な相互作用が全くない競争群集であること、推定した種間相互作用行列がランダム行列になっていることを発見した。さらに、そのパラメータ値を用いてレプリケーター・ミューテ-ター方程式のシミュレーションを行い、変異率(死亡個体が資源として他のOTUに再分配される割合)が高いときには平衡点に収束する安定なダイナミクスが観測され、また、変異率が低い場合には検出限界以下への存在量減少や復活を含むカオティックな動態を示すことを見出した。さらに種の豊富さのパターンが1930年に元村勲が世界に先駆けて発見した幾何級数型になっていること、すなわち腸内細菌叢が厳しい腸内環境で競争していることを示唆する結果を得た。その成果を国際会議AROB2023で口頭発表し、プロシーディングス論文が発行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度に行ったマウス腸内細菌叢の新しいモデルの研究は、当初の予定通り、複雑な生物ネットワークが非平衡状態にあることを強く示唆するものであり、従来の平衡点への収束を予測するモデル研究の結果とは一線を画する、複雑な生物ネットワークに対する新しい見方を提供しているものと考えられる。特に、マウス腸内細菌叢のOTU間相互作用がランダム行列であるという発見は、1970年代にR. MayのNature論文に始まる「生態学における多様性と安定性の論争」にひとつの有力な回答を与えるものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、湖沼などの水域における細菌叢のOTU動態を調査してデータを集積している実証研究者と共同研究を開始し、本研究で提案した細菌叢ネットワークモデルのパラメータ推定を行っている。これにより、水域の細菌叢のOTU間相互作用の特性や、種の豊富さのパターンの変異率(死亡個体が資源として他のOTUに再分配される割合)依存性などを明らかにする予定である。上記実証研究者は細菌叢だけでなくそれらに感染するウイルスの存在量データなども取得しており、細菌叢とウイルス株のデュアルネットワークの構造やその上での存在量の動態などが明らかになる可能性がある。これらの研究を通じて、最近のCOVID-19などの感染症研究にも貢献したいと考えている。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により海外出張ができなかったため. 今年度は国際会議に招待されているが, 旅費が全額支給されないため, その渡航費用に充当する.
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