2020 Fiscal Year Research-status Report
力学系と線形応答理論に基づく低温度差スターリングエンジン技術の新機軸の提案
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19K03651
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
泉田 勇輝 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 講師 (70648815)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 低温度差スターリングエンジン / 力学系 / 分岐 / 非平衡熱力学 / 線形不可逆熱力学 / 非線形動力学 / 非平衡熱統計力学 / 線形応答理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はまず初年度に行った低温度差スターリングエンジンの非平衡熱力学に関する論文と実験研究をまとめた論文が受理・出版された。低温度差スターリングエンジンの非平衡熱力学に関する論文では、温度差が小さな線形領域で成立するエンジンの熱力学的流れと力を結びつける線形熱力学関係式を求め、その応答係数の間にOnsager相反関係に由来する対称性が成立することを示した。これを用いて効率などの定式化に成功している。これは従来の外部パラメータによって制御されるタイプの熱機関と同型の構造が自律的熱機関にも存在していることを示唆している。そこで、自律的に運動の生じる熱機関と外部制御によって操作される熱機関の間の関係を整理する必要が出てきた。これにより自律的熱機関の物理の理解と制御が期待される。
そのため、低温度差スターリングエンジンのような自律的熱機関への応用を念頭に、まずは単純だが重要なミクロ熱機関のモデルであるガウシアン熱機関について、外部パラメータをゆっくりと断熱的に操作する際の線形熱力学関係式を求めた。重要な結論として、サイクルの各瞬間の平衡状態の周りの応答を記述する局所的Onsager関係式と、サイクル全体の平均的な応答を記述する大域的Onsager関係式をそれぞれを得た。大域的Onsager係数を局所的Onsager係数の積分形によって表現でき、互いの間の階層的関係を確立した。さらにOnsager係数の一つは平衡状態近傍の散逸を規定する量として知られる熱力学長さと等価であることが明らかとなり、これを用いてカルノー効率よりも強い効率限界を定式化することができた。本成果をまとめた論文は本年度内に投稿している(arXiv:2103.03397)。また、この積分形で表現される階層関係と類似の構造は低温度差スターリングエンジンにも現れるため、その関係を調べることが今後の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画とは異なる順序で進展しているが、自律的熱機関と外部パラメータによって制御される熱機関の間の関係について、階層構造に基づく元々想定していなかった展開もあり、研究に深みが増し、その意味でおおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度は本年度で得られた自律的熱機関の性質のより詳細な解析を行うとともに、分岐解析に基づくより効率的な低温度差スターリングエンジンのデザイン設計の課題に取り組む。
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Causes of Carryover |
国内・国際会議などの出張が制約されている影響が特に大きい。一方で本来の計画よりも論文が順調に出版されており、論文のオープンアクセス費など、主に研究成果発表の際の経費として使用する予定である。
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Research Products
(3 results)