2020 Fiscal Year Research-status Report
Microscopic and hydrodynamics approaches to nonequilibrium statistical mechanical models
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19K03665
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
笹本 智弘 東京工業大学, 理学院, 教授 (70332640)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 非平衡統計力学 / 揺らぎ / KPZ普遍性 / ランダム行列 / 流体力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まず昨年度に引き続いて多成分多粒子確率過程モデルに対する解析をさらに進め、長時間における揺らぎの性質を決定する本論文を完成させた。これは数年前に提案された現象論的理論である非線形揺らぐ流体力学に、ミクロなダイナミクスの立場から厳密な検証を与える最初の結果である。現在はより一般性の高いモデルに対する研究を進めており、部分的な結果を得つつある段階である。 本研究課題においては、保存量が複数ある多成分系を主たる研究対象としているが、当然より基本的な1成分系についてもそのターゲットとしている。本年度は、1成分系に関する新たな解析手法の可能性に気づいたため、その開発にかなりの時間をかけた。その結果、これまでとは全く違う方法により、揺らぎの母関数をフレドホルム行列式に書き直すことに成功した。これは、これまでのモーメントとベーテ仮説を組み合わせる標準的な手法を用いる場合と比較して解析が容易であり、半無限系など従来の手法では解析が困難であった問題への拡張が可能になると期待できる。また現時点では特殊な1モデルに対する結果のみ得られているが、今後種々のモデルの解析に一般化できると期待される。最初の結果に関しては現在論文を準備中である。 また、今年度は開放量子系のダイナミクスに関する研究も進めた。特に境界にのみ散逸のあるXXスピン鎖の場合に、その時間発展を記述する量子マスター方程式を厳密に解くことに成功した。その結果、系は特徴的な光錐状の磁化領域を示すこと、系の中心では遅い緩和が見られること、境界付近ではプラトーが見られることなどを解析的に説明することができた。またこの成果に関する論文を作成した。 他にも、対称排他過程に対する大偏差を、ミクロなモデルに対する計算から求める手法を改善し、非対称性のある場合の検討を開始した他、MFT方程式を解くことで再現する研究も進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、まず多成分系に対する詳細な解析を行った研究に関する論文を完成することが最初の目標の一つであった。論文執筆を進める中で、何点か再検討を要する部分が現れ、その度に解決にかなりの時間と労力をかける必要はあったが、最終的に65ページの論文にまとめることができた。 本年度の大きな成果の一つは、1成分系に対する新たな解析手法の開発に成功したことである。これは本研究課題の当初計画においてあえて明示されていたものではないが、当該研究分野において基礎となる技術を発展させることができたのは大きな成果といえ、この部分に関しては当初予想より研究は進展したといえる。 また開放量子系のダイナミクスに対して、厳密解を得てその性質を詳細に議論することができたことは、当初の予想を超えた成果であり、この部分に関しても、当初予想より研究は進展したといえる。一方量子系ダイナミクスを流体力学的な観点から取り扱うというテーマに関してはそこまで考察が進展しておらず、その点は当初予定より進展が遅れているといえる。ただ、ミクロな計算で具体的な結果が得られたことは、今後の流体的な考察に対しても有益な知見をもたらすものと期待される。 保存量が複数ある系に対する流体的な考察も、当初予定より進んでいるとはからなずしもいえない状況ではあるが、上記ミクロな解析の論文が完成したことや、排他過程に対するMFT方程式からアプローチする手法に関する考察は進展しつつあり、今後は進展が加速することが期待できる。 全体として、今年度はミクロなモデルに対する計算を通した解析に関してはいくつか結果が得られ、当初予定より進んだといえる。一方、流体的な考察に基づいた研究の進展に関しては十分とはいえない面もあるが、予備的な考察は着実に進んでおり、来年度以降の進展が期待できる状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度中は、ミクロ系に対する計算を用いた解析でいくつかの進展が得られたので、それらを発展させてゆくとともに、流体力学的なアプローチとの比較を進めて行く。 まず多成分系に対する解析に関しては、現在より一般性のあるモデル系に対する拡張の可能性を検討しているので、その結果を明らかにする。次に1成分系に対する新しい解析手法に関しては、2020年度中にその基本となる部分の構造を明らかにすることができたが、同時にいくつかの解決すべき新たな課題が生じたので、それらの解決を進める。特に、本手法においては2つのモデル系を離散可積分系で関連づけているが、その流体力学的な理解が元のモデルの揺らぎを理解することに利用できないか、検討を行う。 また、開放XXスピン鎖に対し流体力学的な手法を適用することにより、ミクロな計算で得られた結果と比較、検討を行う。最初はミクロな計算で調べた磁化やスピン流の時間発展の様子がどの程度再現されるかを調べたのち、揺らぎについても検討を進める。 さらに、Macroscopic fluctuation theory(MFT)理論を用いて大偏差を理解する研究を推し進める。2020年度中に、系の流体力学的な振る舞いが、MFT理論を取り扱いが比較的容易な非線形偏微分方程式に書き直すことで再現できることを確認したが、これを拡張して揺らぎを理解することを可能とする。当初は一番単純な一様密度の場合を扱うが、手法の有効性が一旦確認されたのちは、より一般の初期条件の場合に一般化を行う。さらに同様のアイディアと手法を、保存量が多数ある系に対して適用することを目指す。その際、本研究ですでにミクロな計算を行った多成分非対称排他過程や、XXZスピン鎖をはじめとする量子可積分系にも適用することを目標とする。
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Causes of Carryover |
参加を予定していた複数の国際研究集会が新型コロナウイルス感染拡大のため参加できなくなったため。
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Research Products
(6 results)