2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K03668
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
南 和彦 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 准教授 (40271530)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 格子模型 / 厳密解 / free fermion |
Outline of Annual Research Achievements |
ハミルトニアンを構成する演算子がある種の交換関係をみたすなら、模型を free fermion系に厳密に変換できることが代表者の研究によりわかっている。このときHamiltonianを対角化する変換は、それらの演算子から適当な規則によって自動的に得ることができる。この変換はJordan-Wigner変換の代数的な一般化であると考えられる。 この方法によって、S=1/2 の1次元transverse Ising模型、Kitaev模型、XY模型、2次元正方格子Ising模型、その他より複雑な新しい模型の分配関数と相関関数が厳密に得られる。1次元Kitaev模型とtransverse Ising模型の自由エネルギーが一致することも自然に説明される。この変換はJordan-Wigner変換を特別な場合として含み、Jordan-Wigner変換とは異なる変換も模型に対応して自動的に生成される。 また、1次元cluster模型を含む可算個の可解模型の系列が複数導入され、string相関が厳密に導出されている。基底状態がcluster状態である模型が可算個得られ、その量子相転移のcentral chargeがc=m/2 (m=1, 2, 3, …)であることが導かれている。 さらに2次元でのJordan-Wigner変換(およびその一般化)が構成され、六角格子Kitaev模型にWen-Toric-code模型の相互作用を加えた模型の基底状態を厳密に求め、その相図が得られている。
本研究ではこの手法の応用として、(1) 次近接相互作用(およびその他の2種類の相互作用)のあるクラスター模型の厳密解、(2) グラフ化とグラフの隣接行列による取り扱い、(3) Onsager代数との関係、について研究した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 次近接相互作用(およびその他の2種類の相互作用)のあるクラスター模型の厳密解を導き、その基底状態の相図を求めた。相図は高い対称性を持ち、この模型に限らず同じ代数的関係をみたす模型に対して普遍的である(arXiv:2003.00962)。次近接相互作用のあるクラスター模型の相図は、2017年の論文にある一般論の具体例であり、フェルミオン化の伝統的な手法であるJordan-Wigner変換では解けない模型の厳密解を得たことになる。
(2) 京都大学基礎物理学研究所のグループとの共同研究として、演算子の交換関係をグラフで表示し、模型の可解性をグラフの構造から理解するフェルミオン化の手法について考えた。またグラフ化のアイデアを知った指導学生が、グラフの隣接行列を二元体の上で考えることで、演算子の変形を行列の基本変形に対応させ、模型の可解性が一般化されたクリフォード代数の分類の問題に帰着されることを発見し証明を与えた(以上、arXiv:2003.13264)。元々のフェルミオン化のアイデアが、当初は予想しなかった新しいアイデアを得て発展している。
(3) Onsager代数はOnsagerが2次元Ising模型を解いた際に手がかりにした代数構造である。2次元格子上のいくつかのIsing模型の他には、superintegrable chiral Potts模型にその構造が見られる。それ以外の具体例は数多くは知られていなかったが、このフェルミオン化の手法に現れる演算子およびその拡張から適当に構成された演算子系が、Onsager代数の生成子をなすことを示した。その結果としてOnsager代数の構造を持つ可解模型を可算個構成することができ、また非一様な相互作用を持つ模型についてもその可積分性を示すことができた(in preparation)。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) 次近接相互作用のあるクラスター模型の他にも、Jordan-Wigner変換では解けないがこの手法では解ける模型がいくつもある。これらはfree fermionであるという点では同じだが、スピン演算子で書けばそれぞれに異なる構造を持ち、物理的な性質は異なる。一方で、相図は何らかの点で系統的な構造を持つことが推測される。
(2) グラフ化による議論は見通しが良く、高次元でも可解な模型を構成できる。隣接行列による議論は保存量との関係が明確で、かつ一般性を持つ結果である。いずれも今後さらに発展することになると考えている。
(3) Onsager代数の他に、可解な模型にしばしば現れる代数構造として、Temperley-Lieb代数がある。条件をみたす演算子系(およびその拡張)を用いて、Temperley-Lieb代数の生成子も構成できる。可解な代数構造とこの手法との関係を調べることができる。
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Causes of Carryover |
3月に予定されていた米国物理学会への出張を中止したため次年度使用額が生じた。適当な時期に海外での研究発表を行いたい。
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