2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of Hydrogen-terminated Si surfaces and the growth of metal nanoclusters under diffusion limited condition
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19K03681
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
須藤 彰三 東北大学, 理学研究科, 教授 (40171277)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川勝 年洋 東北大学, 理学研究科, 教授 (20214596)
江口 豊明 東北大学, 理学研究科, 准教授 (70308196)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 金属ナノクラスター / 結晶成長 / 水素終端シリコン表面 / エッチング過程 / 走査トンネル顕微鏡 / 量子サイズ効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、水素終端Si表面を舞台として、拡散律速下における、表面に吸着した個々の原子の運動からナノクラスター成長過程までの機構を解明することを目的としている。本年度は、水素終端Si(111)-(1×1)表面上の銀(Ag)ナノクラスターの成長過程の走査トンネル顕微鏡(STM)による観察を中心に研究を行うことを計画した。初めに、我々の研究グループで開発した水素終端Si(111)-(1×1)表面作製法を用い、欠陥密度0.1%以下の高品位表面の作製に成功した。次に、Ag原子の表面吸着量を1×10^-4 原子層(ML)/sという極端に遅い蒸着速度、及び室温の条件で、拡散律速下のナノクラスター成長を実現した。その結果、(1)成長初期(< 1 ML)には、ドーム状3Dクラスターが形成され等方的に成長する(三次元成長)こと、(2)成長が進む(> 2 ML)と、量子サイズ効果により、ドーム状3Dクラスターから平板状2Dアイランドへと形態が変化すること、(3)平板状2Dアイランドは拡散律速下で成り立つスケーリング則に従って表面平行方向に二次元成長すること、(4)3Dクラスターから2Dアイランドへの形態変化にはクラスターの合体が伴っていることを明らかにした。特に、従来、低温でのみ観測されてきた量子サイズ効果が、室温で観測された意義は大きい。その発現機構の解明に多くの知見を与えるからである。加えて、Ag原子188個、556個、1467個からなるドーム状3Dクラスターの構造モデルを提案した。さらに、H:Si(111)-(1×1)表面上での鉄(Fe)薄膜の成長初期過程における微視的構造と局所電子状態をSTM/トンネル分光(STS)を用いて調べた。以上の成果は、2編の論文、2編の国際会議、5編の学会発表として報告されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記述したように、本年度計画した水素終端Si(111)-(1×1)表面上の銀(Ag)ナノクラスターの成長過程の走査トンネル顕微鏡(STM)による研究では、室温における“量子サイズ効果”の発見、及びAg原子数に依存した“3Dナノクラスターの構造モデル”を提案することができた。これは、研究分担者:江口豊明准教授の走査トンネル顕微鏡(STM)及び走査トンネル分光(STS)測定技術の高さに依存するところが大きい。室温における量子サイズ効果の発見は、研究代表者の形成されたAgナノクラスターの電子状態への興味を刺激した。そこで、計画にはないが、新たに角度分解光電子分光法で、Agナノクラスターの(2次元)電子状態の研究を実施することとした。得られた知見は、ナノクラスター成長における量子サイズ効果の役割を解明するものと期待される。 我々の研究グループで開発した水素終端Si(111)-(1×1)表面作製法も、実験を繰り返すうちに欠陥の密度が下がってきた。熟練の成果と判断している。STMで観察しても、広い範囲(100×100 nm)で欠陥のない表面が得られるようになってきた。 加えて、鉄(Fe)薄膜の成長初期過程では、(1)Fe原子は、H:Si(111)表面の(1×1)構造を保って特定のサイト(T4サイト)に優先吸着し、ごく初期段階から(111)配向したbcc構造で成長すること、(2)Fe(111)薄膜は、表面上に微小な{110}ファセット面で構成されるナノマウンド構造を形成しながら成長すること、(3)非占有状態STM像中のFeクラスター周囲の基板に現れる窪み構造は、局所的なバンドベンディングに由来し、FeクラスターとSi基板との界面におけるショットキー接合の形成を意味していることも明らかにできた。
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Strategy for Future Research Activity |
交付申請書に記述した「素終端Si(110)面及びSi(100)面の開発」及び、現在までの進捗状況で着想した「Agナノクラスターの電子状態の研究」を遂行する計画である。現在、新型コロナウイルス感染症対策のために、大学では実験ができない状況にあるが、できるようになった段階で、できるだけ多くの成果を挙げたいと考えている。 前者に関しては、交付申請書の計画通り遂行する予定である。研究代表者:須藤彰三と研究分担者:川勝年洋が実施する。表面構造の異方性の効果を検証するために、水素終端Si(110)-(1×1)及び水素終端Si(100)-(1×1)表面の開発を行う。Si(111)表面で用いた化学溶液処理法を適用し、試薬の選択および反応時間や温度の条件を探りながら、開発を進める。現在作成可能な水素終端Si(110)-(1×1)表面は、光電子分光法によるバンド構造や表面フォノンの観測には成功しているが、表面は筋状の凹凸構造で覆われている。更なる平坦化を目指すために、理論的にエッチングプロセスを解析し条件を探る。また、重水素置換を行って、重水終端Si(110)-(1×1)表面の表面フォノンを測定し、同位体効果を明らかにする。 後者に関しては、同じ物理教室の光電子固体物性グループ、佐藤宇史教授のグループの協力を得て角度分解光電子分光法の実験を遂行する計画である。角度分解光電子分光法では、Agナノクラスターの(2次元)電子状態の観測を目的とし、得られる知見はナノクラスター成長における量子サイズ効果の役割を解明するものと期待される。
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