2019 Fiscal Year Research-status Report
ハロゲン化鉛ペロブスカイトにおけるラシュバ効果と磁気光学特性の解明
Project/Area Number |
19K03683
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山田 泰裕 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (50532636)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 磁気分光 / ペロブスカイト構造 / ラシュバ効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、磁場下における時間分解発光分光およびカー回転分光によってスピンに依存した光学特性やスピン緩和ダイナミクスを明らかにすることで、ハロゲン化鉛ペロブスカイトを舞台とした新しい光物性・スピン物性の研究展開を行う。特に、反転対称性と強い電子格子相互作用によって発現するラシュバ効果に着目し、その物理機構の解明を目指す。本年度は、単結晶試料の育成方法を改良し高品質化を行ったほか、磁気反射分光および発光分光によるスピン緩和ダイナミクスの測定を行った。 磁気反射分光においては、荷電励起子遷移と考えられる特徴的な磁場依存性を示す共鳴を観測した。この光学遷移が荷電励起子遷移であるとすると、標準的な荷電励起子遷移の理論では励起子束縛エネルギーに比べて荷電励起子束縛エネルギーが大きすぎるという問題がある。本研究では、これがラシュバ分裂によって波数選択則が緩和されたことによる可能性を検討している。これまでにバルク半導体において荷電励起子遷移が明確に観測された例はなく、今後の更なる研究が必要である。 また、偏光/時間/空間分解発光分光によって、従来報告されているよりも極めて長いスピン緩和時間を観測したほか、スピン寿命イメージングにより、ドメイン構造・ドメイン境界とスピン緩和に相関があることを明らかにした。このことは界面における反転対称性の破れがラシュバ分裂を引き起こし、それがスピン緩和機構に影響していることを示唆する結果である。 これらの研究成果を基に、ラシュバ効果とハロゲン化鉛ペロブスカイトの光学特性の関係について検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで以上に高品質な単結晶試料の作製に成功し、低温において不均一幅の非常に小さい光学スペクトルを得ることができた。これに伴い、これまでの報告では見られなかったような小さなスペクトル分裂の観測が可能になり、これが荷電励起子遷移と思われる微小なスペクトル構造の観測につながった。また、当初目的にしていた時間・空間分解スピン緩和ダイナミクスの測定にも予定を前倒しして成功している。これらのことから、当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果によって、ドメイン構造とスピン緩和ダイナミクスの相関を実験的に明らかにすることができた。一方で、ドメイン構造の詳細(強誘電ドメイン/強弾性ドメインなのか)については不明であり、この解明が物理機構の理解には必要不可欠である。そのため光第2高調波やラマン分光を使った対称性の調査を行い、ドメイン構造についての知見を得る。これとスピン緩和ダイナミクスの関係から、ラシュバ分裂とそれがもたらすスピン緩和ダイナミクス、光学特性への影響を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本年度購入予定であった小型研磨装置について、購入を後ろ倒しにしたため。これは、劈開によって光学レベルの結晶面が十分な面積で確保できる可能性があるため、しばらく様子を見ることが妥当と考えたためである。現在作製に取り組んでいるCsPbBr3単結晶については劈開が困難であるため、研磨装置の導入が必要と思われる。そのため次年度以降に購入の予定である。
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