2019 Fiscal Year Research-status Report
Exploring a Phase Diagram of Bose Gases in a 2D Anti-Dot Optical Lattice
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19K03685
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木下 俊哉 京都大学, 人間・環境学研究科, 准教授 (80452259)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ボース・アインシュタイン凝縮 / 光格子 / アンチドット / ボース・ハバードモデル / ジョセフソンアレー / コスタリッツ・サウレスクロスオーバー |
Outline of Annual Research Achievements |
2次元アンチドット型光格子内に導入されたボース凝縮体の位相コヒーレンスに関する研究を行った。系の性質を特徴づけるパラメーターとして、主にアンチドットの高さを変化させ、それに伴う原子数密度と系の次元性の変化が、系全体の位相コヒーレンスにどのような影響を与えるのかに着目した。 理論面からは、たとえエネルギー極小が連結していても、ドットに挟まれた狭い領域ではピンチ効果に相当する、ある種の有効ポテンシャルが働くとして新たに導入し、2次元ボース=ハバードモデルに基づく計算を行った。モデル計算と実験結果を比較することにより、系の相図の決定を試みた。以下は、その主な結果である。 1)位相コヒーレンスが広範囲のパラメーター領域で維持されており、ホッピングレートがかなり低下してもマクロな位相コヒーレンスは維持されている。この事実は、ポテンシャル極小の交差領域に集まった気体が互いに弱く結合しあい、2次元のジョセフソン接合系を形成しているとみなせることを示している。これは、モデル計算の結果とも合致する。 2)ドットが極めて高くなると、原子の事実上の局在とデコヒーレンスが起こる。強い局在により1次元性の効果が支配的になる通常型の光格子とは対照的に、アンチドット型の場合は1次元性の効果は比較的弱く、2次元面内の位相ゆらぎ、特に熱的な位相ゆらぎの影響が先に現れうることを指摘し、観測された位相欠陥(量子渦)の検出確率の急激な上昇は、ベレジンスキー・コステリッツ・サウレス転移として解釈できると提唱した。 系の次元性が緩やかに変遷していく次元のクロスオーバー領域での位相コヒーレンスの変化を明らかにし、通常型の光格子では観測できなかった新しい現象をとらえることに成功した。上記の研究成果は、専門誌 Physical Review A に出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
次元がクロスオーバーする領域での位相コヒーレンスに関して、新たな知見が得られたことは評価できるが、当初予定していた、新たな閉じ込めを印加して、系そのものをまず2次元系に近づける、そのうえでアンチドットの高さにより系の物性がいかに変化するのか、という課題は探索できていない。2次元系にするために必要な新たな光トラップの光源として、近赤外のレーザーアンプの使用を想定していたが、その開発に当初の予定より時間がかかっている。 また、これまで安定に生成できていたボース・アインシュタイン凝縮体(以下、BEC)にも、いくつか問題が生じている。生成に必要な光源の経年劣化(出力パワーの減少、周波数安定度の低下)および原子数そのものが減少している。後者は、真空装置内に導入したRbの金属アンプル量の減少によるものと考えられる。BECは研究の前提としていたものであるため、その部分でのトラブルが研究のペースを低下させている。
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Strategy for Future Research Activity |
BECは当初の原子数よりは少なくなったものの、生成はできており、システムや手法自体に大きなトラブルはない。技術的な問題である光源の安定度の改善とRb金属アンプルの取り換えを行えば、再び実験を軌道に乗せることができると考えている。 上記の実験系の改善と並行して、新たな光トラップ用の光源の開発を進め、実際の系に導入したいと考えている。この光源は、系の低次元系に必要なものであるが、同時にBECの原子数の改善にも役立てることができるので、必要であれば利用する。特に、同位体である85RbのBECを生成するには、必須になると予測している。 上記の準備が完了すれば、低次元化での位相コヒーレンスの研究、次元や原子数による局在化の変化の様子を調べることができる。特に、局在化が相転移を伴いうるのかを明らかにし、ボース・ハバードモデルの検証を行いたいと考えている。あわせて、系を有限温度下におき、熱揺らぎの効果も検証したいと考えている。
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Causes of Carryover |
当初、海外での国際会議への参加を考えていたが、執筆していた論文のアクセプトに時間がかかり、追加の解析や計算、細部の議論の必要性が生じた。そこで、一旦、国際会議への参加よりも論文の完成を優先し、専念したため、次年度使用額が派生した。 論文は無事、2019年の冬に出版されたので、派生した使用額を2020年度の夏あるいは秋に開催予定の国際会議参加に充てようと考えたが、コロナ禍により開催はすべてキャンセルとなった。よって、経常経費となる光学部品、あるいは状況にもよるが、国内の研究会参加にあてたいと考えている。
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