2019 Fiscal Year Research-status Report
Ultrafast and efficient radiative decay due to coupling of light and multi-componet excitons in semiconductor single crystal thin films
Project/Area Number |
19K03687
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Research Institution | The University of Shiga Prefecture |
Principal Investigator |
一宮 正義 滋賀県立大学, 工学部, 准教授 (00397621)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 励起子 / 超高速光学応答 / 非線形光学 / 薄膜成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
半導体ナノ構造における光学応答は、波動性が顕現した励起子と空間構造を無視できる光電場との相互作用を考える長波長近似によって記述される。一方で、ナノとバルクの中間のサイズ領域にあっても励起子のコヒーレンスが系全体に拡がっている高品質薄膜の場合、光波と励起子波の長距離にわたる結合によって長波長近似の枠組みを超えた高効率の光学応答を示すことが明らかになってきた。本計画では、まず分子線エピタキシー(MBE)法と比べて成膜に要する時間が短く、短期間で多数の試行を行うのに適した真空蒸着法によって、光と励起子の相互作用が大きい銅ハライド薄膜の品質向上を目指した。基板には、安価である上に銅ハライドと結晶構造が等しく格子不整合度の小さいSi基板を用いた。様々な成長条件(成長レート・基板温度・基板の方位)でCuBr、CuI薄膜を作製し、原子間力顕微鏡(AFM)による表面平坦性評価及びX線回折(XRD)による結晶性評価を行った結果、XRDスペクトルの幅が粉末試料に匹敵するほど狭く、算術平均粗さが1 nm程度の平坦性が高い薄膜の作製法確立に成功した。CuCl薄膜についてはMBE法に電子線照射を取り入れた独自成膜法による作製も進め、Si(100)基板よりSi(111)基板の方が高品質薄膜の作製に適しており、Si基板とCuCl層の間にCaF2バッファ層を導入することによって膜質が高くなることを明らかにした。 光学測定準備としては、まずフェムト秒超短パルスレーザーの整備を進め、非線形結晶を通して発生させた第2高調波を用いることによって各銅ハライド試料を励起できることを確認した。また、光と励起子の長距離結合による高速光学応答を評価する手段として上方変換法を用いた超高速分光系の構築作業も進め、GaAs基板を用いた室温環境下でのテストでは発光の減衰プロファイルを得ることに成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本計画では、銅ハライドに対して高品質薄膜作製法の確立と光学応答の評価を主要目的としているが、いずれにおいても明確な進展が見られた。 試料作製に関しては、MBE法では多大な時間を要する成長条件の最適化を真空蒸着法を併用することによって短期間で達成することができた。さらに、従来使用してきたCaF2(111)基板は高価であるため、年間の薄膜作製可能数は予算に依存する限度があったが、結晶構造・格子不整合度においてCaF2(111)基板と遜色なく、銅ハライドのエピタキシャル成長が期待されるSi基板を導入することにより、初年度のみで大幅な試料品質向上に至った。一方で、光-励起子長距離結合効果に関してはどちらの基板上に作製した試料が優れているかは未知数であるため、今後は光学測定等による慎重な評価が必要である。 光学測定関連では、本計画での新たな試みとして、フェムト秒級の超高速励起子輻射緩和を直接測定できる上方変換系の構築を進めたが、GaAs基板での発光寿命測定ができる段階に至り、こちらも順調な状況となっている。しかし、バンドギャップが小さいため上方変換光を近紫外領域に調整できるGaAsと比べワイドバンドギャップ半導体である銅ハライドの場合は難易度が大幅に高くなることが予測されるため、上方変換法による発光減衰の直接観測が難しい場合に備えてこれまでも測定実績がある過渡回折格子や光カー効果を用いた非線形光学現象の測定も併用できるシステムの構築を進める必要があると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果により、Si基板上に銅ハライドを成膜する条件を明らかにすることができたが、更なる膜質向上が実現する可能性を追求するために異なる基板上での成長も試みる予定である。特に、高品質CuCl薄膜作製で実績のあったCaF2(111)基板はCuBr・CuI薄膜作製にも有効である可能性が高いので、これを用いた場合の最適成長条件の追求を予算の許す範囲で進めていきたい。また、作製した試料に対しては光学的評価も進めていく。まず、低温環境下での反射スペクトル測定より、光学的品質の指標となる位相緩和定数及び正確な膜厚を得ることができるためこれを行い、位相緩和定数の小さい高品質試料に対しては発光や非線形光学応答の測定も行う。前年度は励起光源である超短パルスレーザーの整備を進めてきたが、今後は予算の関係で進められなかった受光系に対して高スペクトル分解での測定が可能になるようハード面での準備を行う計画である。さらに、縮退四光波混合や光カー効果測定への切り替えも可能となる光学系構築も同時に進めていく。
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Causes of Carryover |
前倒し支払い請求を行ったため本計画開始時点での前年度配分額については全額既に使用している。残額は少額であるため計画の変更は不要であり、当初の計画通り翌年度助成金と合わせて試料原料・基板・光学部品等の物品費、成果発表等の旅費、論文出版関連等のその他経費に使用する予定である。
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