2019 Fiscal Year Research-status Report
強相関量子多体状態の形成過程をフェルミ原子気体の高い操作性を使い解明する研究
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19K03689
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
大橋 洋士 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (60272134)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 強結合効果 / 非平衡定常状態 / 超流動 / BCS-BECクロスオーバー / 1粒子励起スペクトル / 対形成揺らぎ / T行列理論 / ケルディッシュグリーン関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
化学ポテンシャルの値が異なる2つの熱浴に接することで非平衡定常状態になっている2成分フェルミ原子気体のBCS-BECクロスオーバー領域を、理論的に研究した。問題設定として、2成分間にはフェッシュバッハ共鳴に起因する可変な引力相互作用が存在するとした。この系の熱平衡状態の研究で発展してきた強結合T行列理論を、ケルディッシュグリーン関数理論を駆使し、非平衡定常状態でも扱えるよう拡張することに成功、2つの熱浴の化学ポテンシャルの差で定義された非平衡パラメータを変化させることで、超流動転移温度がどのように振る舞うかを、弱結合BCS領域から強結合BEC領域まで明らかにした。これに加え、超流動転移温度以上における1粒子励起スペクトルを計算し、対形成揺らぎに起因する擬ギャップ現象に対する非平衡効果を理論的に予言した。 対形成相互作用が弱い弱結合BCS領域からユニタリ領域では、超流動転移温度が非平衡パラメータに対し、いわゆるリエントラントな振る舞いをすることを、具体的数値計算により見出した。この現象の起源について更に研究を進め、考えている非平衡状態では、フェルミ原子の運動量分布が、熱平衡状態の場合とは大きく異なり、2段構造をとっていることがこのリエントラント現象の原因であることを突き止めた。つまり、運動量分布に現れるこの構造が、あたかも大きさの異なる2つのフェルミ面が存在するかのような効果をもたらし、結果、磁場中の超伝導状態として知られるFFLO状態と類似の状態に対応する対形成揺らぎが非平衡効果により増大、その影響で超流動転移温度に異常な振る舞いが生じるのである。研究では、このFFLO型の対形成揺らぎを実験的に観測する手段として、光原子分光スペクトルを用いることが有効であることも、数値計算により指摘している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、非平衡効果と相互作用効果を同時に扱う理論の構築が極めて重要であるが、研究初年度の時点で、T行列理論で強い引力相互作用を考慮、かつ非平衡効果をケルディッシュグリーン関数で考慮した非平衡強結合理論の構築に成功しており、研究は順調に進んでいると判断する。また、この理論を実際に数値的に解くことも成し遂げ、非自明な対形成揺らぎの存在を示唆する結果を得た、という点も、このように判断する根拠である。
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Strategy for Future Research Activity |
2019年度の研究で明らかにした「非平衡効果により増幅されたFFLO型の対形成揺らぎ」について、さらに研究を進める。通常、FFLO超流動(超伝導)は、磁場により2スピン間のフェルミ面の大きさに差異を生じさせることで実現できると考えられているが、2019年度に得られた「非平衡効果でフェルミ粒子の運動量分布に2段構造を生じさせる」機構で、FFLO超流動が実現できるか研究する。この時、系の安定性、不安定性は、熱平衡状態の場合は自由エネルギーにより判断できるが、この方法は本研究が対象とする非平衡状態に対しては用いることができない。そこで、どのような基準で非平衡状態にあるFFLO超流動の安定性を判定すれば良いか、という点から研究を出発させる。系の設定としては、最初は、相互作用効果を平均場近似の範囲で扱うことで問題を簡単化、その後、強結合効果をT行列理論の枠組みで取り入れる。熱平衡状態では、フェルミ原子気体のような連続系ではFFLO状態は対形成揺らぎに対し不安定であることが知られているが、同様の現象は非平衡状態でも起こることが考えられる。本研究では、光格子などを導入することでこの問題の回避を図る。 2019年度はノーマル相のみを扱ったが、2020年度以降は非平衡超流動状態も扱えるよう、理論の拡張を開始する。同時に、非定常状態への拡張も行い、系の時間発展を扱える非平衡強結合理論の構築を目指す。 近年、フェルミ原子ガスの研究分野では、トンネル接合でつながった2つの原子気体間を流れるカレントの実験が進展している。本研究でも、当該研究分野の発展に追随すべく、2019年度に構築した理論の枠組みをこうした系に適用、既に報告されている実験との定量的比較を通じ、トンネルカレントに対する対形成揺らぎの効果を明らかにする。同時に、こうした実験との比較から、構築した理論の妥当性や改善点を検討する。
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Causes of Carryover |
数値計算用コンピュータが、希望する性能を下げることなく多少安価に購入することができた。また、今年に入り、コロナウイルス問題により、参加を考えていた会議や研究会が全て中止になったため、それに対する旅費の支出がなくなった。以上により次年度使用額が生じた。 今年度未使用分を合わせた2020年度の使用計画については、コロナウイルス問題が引き続き存在するため学会参加が不透明でことから、その推移を見つつ、一定の研究旅費は確保するものの、生じた次年度使用額次年度分と併せ、研究に必要な計算機や研究書籍の購入に充て、研究を強力に推進する。
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Research Products
(40 results)