2020 Fiscal Year Research-status Report
静水圧力下における高圧氷VII相単結晶の作製とその弾性的・電気的性質の解明
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19K03698
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
佐々木 重雄 岐阜大学, 工学部, 教授 (30196159)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 氷VII相 / 高圧力 / 誘電率測定 / X線回折測定 / 弾性定数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では,グリセロール中で氷VII相の単結晶を作製し,静水圧または準静水圧力下で,氷VII相の弾性的性質,電気伝導度,誘電率などを調べ,13 GPa付近で起こる電気伝導率の変化の発現機構解明を目的としている.本研究2年目である令和2年度は,氷VII相の「電気伝導率・静電容量測定」,「X線回折測定」,「高圧ブリュアン散乱による弾性的性質の解析」を行った. 「電気伝導率・静電容量測定」については,通常の4端子法で15 GPaの高圧力まで氷VII相の誘電率測定を行ったが,13 GPaにおける電気的性質の異常を見出すことはできなかった. 一方「X線回折測定」は,あいちシンクロトロン光センター:BL2S1で,グリセロール圧力媒体中の粉末および単結晶氷VII相と圧力媒体無しの粉末氷VII相に対して行い,15 GPaまでの格子定数の圧力依存性を決定することに成功した.その結果は,準静水圧力下の氷VII相の格子定数は静水圧力下の試料に比べ若干大きめの値を,一軸性圧力が印加されている場合は一軸性歪の増加に伴って格子定数が小さくなることを示しており,氷VII相は静水圧力下,準静水圧力下,一軸性圧力下それぞれで異なる格子定数を示す可能性があることが分かってきた. 「高圧ブリュアン散乱による弾性的性質の解析」では,7 GPa以上の高圧力下では,測定する結晶ごとに明らかに異なる弾性定数,体積弾性率を示すことが分かった.この結果はX線回折測定から決定した格子定数の圧力依存性が静水圧性に応じて変化していることを反映していると考えられる.すなわち,氷VII相の物性は結晶歪の影響を大きく受ける可能性が非常に高いことを示唆している. また,5.5 GPaまで静水圧力を保つグリセロールに替わる圧力媒体の探索も行っており,結果としてプロパノール系の圧力媒体が8 GPaを超える圧力まで静水圧力を維持できることが分かった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べた通り,令和2年度は,当初の計画通り順調に実験は進行している.しかし,結晶歪の制御が難しいことから,誘電率測定による氷VII相の詳細物性測定が困難であること,新型コロナウィルスの影響であいちシンクロトロン光センターの利用に若干の影響が出ていること,学会発表等ができていないことから,「概ね順調に進展している」とした.
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Strategy for Future Research Activity |
2年目の令和2年度は,「電気伝導率・静電容量測定」,「X線回折測定」,「高圧ブリュアン散乱による弾性的性質の解析」を行ってきた.その結果,「電気伝導率・静電容量測定」は通常の4端子法による測定に変更したが,10 GPa以上の圧力下において,氷VII相の静水圧性の確保および高圧歪の制御が難しいことから,誘電率の詳細測定は困難であると判断した.一方で,「X線回折測定」,「高圧ブリュアン散乱による弾性的性質の解析」から,氷VII相の物性(弾性的性質)が想像以上に高圧歪の影響を受けていることが分かってきた. そこで最終年度の令和3年度では,10 GPa以上の高圧力下における氷VII相の静水圧力下X線回折測定と高圧ブリュアン散乱測定の実現を目指し,これまでの成果と合わせて,歪が氷VII相の弾性的性質,電気的性質にどのような影響を与えるのかを明らかにする. そのために,氷VII相に対して有効と考えられるプロパノール系圧力媒体にアルコール系添加物を加え,13 GPa以上の圧力で静水圧を維持できる圧力媒体を開発する.これを用いて,13 GPa付近の氷VII相の結晶構造,格子定数,弾性定数,体積弾性率を静水圧力下で正確に評価し,高圧力によって誘起される結晶歪,一軸性歪が氷VII相の弾性的性質にどのような影響を与えているかを明らかにする.さらにそれらの結果をもとに,氷VII相の電気的性質への高圧歪の影響について評価する.また,今年度は積極的に学会発表,成果発表を行っていく.
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