2019 Fiscal Year Research-status Report
ナローギャップ半導体鉄シリサイドの超強磁場物性研究による遍歴磁性発現機構の解明
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19K03710
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 大輔 東京大学, 物性研究所, 助教 (70613628)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ナローギャップ半導体 / 超強磁場 / 電気伝導度 / 高周波 / 鉄シリサイド |
Outline of Annual Research Achievements |
ナローギャップ半導体FeSiの超強磁場における物性を明らかにすることを最終目標とする本研究は当初の予定通りに進行しており、1年目ではゼロ磁場下において電気抵抗、磁化、比熱などの基礎物性の温度依存性を測定した。その結果、電気抵抗では80Kより低温で熱活性化型の温度依存性からホッピング伝導型の温度依存性へと変化する様子を見い出した。また、非破壊パルスマグネット(磁場発生時間:35ミリ秒)を用いて、60テスラまでの磁気抵抗測定を行い、10K以下の極低温においてヒステリシスを伴う磁気抵抗の変化が観測された。これは、パルスマグネットを用いた計測という準断熱条件下での測定によって、磁場中での試料温度が磁気熱量効果を通じて変化していることを示唆する結果である。 また、420テスラまでの超強磁場下出の電気伝導度測定の結果、磁場誘起の半導体-金属転移を発見した。これによって、FeSiのエネルギーギャップを決定することができ、理論との比較がより用意になることが期待できる。さらに、半導体から金属状態へ変化する途中の磁場において、電気伝導度が特徴的な変化をすることが新しく見いだされた。これは、FeSiのエネルギーギャップ中に何らかのエネルギー準位が存在することを意味している。いくつかの先行研究では、多体効果によってFeSiにはミッドギャップ状態と呼ばれるエネルギーギャップ内のエネルギー準位が本質的に生じることが提唱されている。本研究で得られた結果が多体効果に起因するミッドギャップ状態の存在を支持することにより、低温においてFeSi中の電子構造を形成する要因として多体効果が重要であることを確認したということは、ナローギャップ半導体の中でもFeSiが特異な物質であるということを明確にできたという重要性を有している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究期間の1年目に予定していた、ゼロ磁場下における基礎物性の温度依存性についての研究は完了し、2年目上半期までの期間に予定していた超強磁場下での電気伝導度測定にも、ある程度の目処がたつところまで実験が終了した。これらの研究成果をもとに1つ目の投稿論文を現在執筆中であり、2年目上半期中には学術雑誌に投稿できる見込みである。これらの進捗状況から、計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目に実行予定の超強磁場下における磁化測定に関しては、自己補償ピックアップコイルが外部磁場に由来する誘導起電力を打ち消しきれないという問題点に対して、自己補償ピックアップコイルの形状の改良という解決策を研究計画で提案していたが、それに加えて、試料の本質ではないバックグラウンド信号を差分測定によって差し引くことを試みる予定である。 バックグラウンド信号は磁場の時間変化を反映しているため、全くランダムな信号というわけではない。自己補償ピックアップコイルの特性を予め詳細に計測しておくことによって、大まかなバックグラウンド信号の時間波形を推定する。任意波形発生器を用いて発生させたバックグラウンド信号を発生し、差分回路に入力することで試料の本質的な信号の寄与を抽出し、計測する。過去には、別の追加補償用のコイルを用いて差分測定を行った例があるが、このように2つの受動的プローブを用いた超強磁場下での差分測定では、プローブ間の干渉効果によって2つの信号の位相がずれ、差し引かれたあとの信号にはより大きいビート成分が重畳してしまうという問題があった。 本研究において実施予定である任意波形発生器を用いた差分測定はこれまで試みられておらず、上記の問題が本質的に生じないためにより高感度な超強磁場磁化測定が実現できることが期待される。
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Causes of Carryover |
コロナウィルスによる日本物理学会の開催中止に伴い、旅費が不要となったために次年度使用額が生じた。翌年度に実施を計画している、超強磁場下での磁化測定のための差動アンプの購入に充てたいと考えている。
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