2019 Fiscal Year Research-status Report
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19K03715
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
井村 敬一郎 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (10444374)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 価数揺動 / 量子臨界現象 |
Outline of Annual Research Achievements |
バルク物質と孤立原子の中間の性質を持つ原子集団(クラスター)の機能制御には、元素ドーピングが主に用いられるが、ドープ可能な元素の選択に制限があるなど課題も多い。本研究では、「Tsai型クラスター」と呼ばれる原子集団で構成される準結晶・近似結晶に着目し、外部パラメータの制御により、連続的なサイズチューニングを試みることで、ミクロな電子状態とマクロに発現する物性との関連を明らかにする。特に、クラスターを構成する希土類元素の価数と磁性について調べ、マクロ物性制御の方法を実証すると共に、強相関電子系・準結晶分野における未解決問題である「非従来型量子臨界現象」の起源の解明に取り組む。本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1) Au-Al-Yb系準結晶・近似結晶の元素置換系における、体積とYb価数、磁性の関係を明らかにした。体積チューニングを施すことで、ある臨界格子定数において、非従来型量子臨界現象(一様磁化率の冪発散)の発現と、価数クロスオーバーが同時に起こることを見出した。このことは、非従来型量子臨界現象が価数揺動を起源に持つことを直接的に示した始めての結果である。 2) Zn-Au-Yb準結晶・近似結晶は非磁性であるにも関わらず、価数揺動状態にある事を発見した。更に準結晶のみにおいて、低温で一様磁化率の冪発散が現れることを見出した。このことから、磁化率の冪発散は、価数揺動準結晶に共通した(特有の)現象であることを示唆する。 3) Zn-Au-Yb近似結晶の圧力下におけるYb元素の価数と体積の関係を明らかにした。その結果、1)で述べたAu-Al-Yb系と同様に、臨界格子定数において価数の異常(クロスオーバー)を見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はおおむね「研究実施計画」に沿って研究を遂行することができ、論文の投稿まで進めることができた。また、当初の計画では想定していなかった、新規価数揺動準結晶・近似結晶の発見と、高圧下における価数・格子定数測定まで行うことができ、本研究課題を遂行する上で、更なる知見を得る事が出来たため。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の「研究実施計画」通り、次年度以降も進めていくことを計画している。特に「研究実績の概要」中の3)を発展させる研究に中心的に取り組む。 価数揺動準結晶Zn-Au-Ybは非磁性であるにも関わらず、Au-Al-Yb準結晶と同様に一様磁化率の冪発散という形で、非従来型量子臨界現象が発現した。これらのことは、量子臨界性の発現には、価数揺動が重要であることを意味する一方で、準周期性の存在そのものが量子臨界性を引き起こしていることを示唆する。両者の可能性を分離する為には、(準周期性を持たない)近似結晶において(適当なチューニングパラメータを作用させることで)量子臨界性を発現させることが重要である。 来年度以降は、Zn-Au-YbやAu-Ga-Yb近似結晶において、圧力下における格子定数・価数といったミクロな物性と、マクロ物性である磁化率の関係を調べる。これまでのミクロ測定の実験より、いずれの系も、おおよそ4GPa程度で価数に異常が見られていることから、同程度の圧力下において磁化率に量子臨界性が発現すると予想している。
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Causes of Carryover |
少額端数であり、適切な物品が購入出来なかった。次年度の予算に繰り入れて使用する計画である。
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Research Products
(6 results)