2019 Fiscal Year Research-status Report
Development of first-principles structure search method applicable to large-scale systems and its application
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19K03717
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
下司 雅章 大阪大学, ナノサイエンスデザイン教育研究センター, 特任准教授(常勤) (70397660)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 構造探索 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一原理計算による構造探索法の開発を進めるのに、ランダムサーチ法を基にする場合探索空間を取りこぼしなく網羅することが重要な課題であった。それを解決するために結晶構造の対称性の230種類をすべて網羅して初期構造を生成する方法を開発した。ランダムに初期構造を生成した場合は取りこぼしがあるかどうかが分からないが、この方法では初期構造として指定した空間群を網羅しているので、その範囲では取りこぼしはない。特に、対称性の高い六方晶や立方晶では原子位置の自由度が少ないので網羅することは容易で、確実かつ計算コストもかからない。異なる空間群で重複するものは対称性の高いほうで処理するように工夫して、計算コストも最小限になっている。テスト計算では、単位胞に1個の系であれば150個程度、4個であれば1200個程度でほぼ網羅でき、これらを初期構造として構造最適化を行えば最安定構造が得られる。 この方法をテルルの高圧相に適用した。テルルは27GPaで体心立方晶になった後、面心立方晶になることが実験で報告されている。100GPa付近でfcc構造に転移後は二重六方最密構造が255GPaまで共存していることが報告された。開発した方法を50GPaから500GPaまでの圧力領域に適用してした。今回は単位胞に4個、空間群は三方晶から立方晶でそれより低対称はランダムサーチ法で補った。これにより実験で得られていた構造に加えて六方最密構造もエンタルピーとしては常に3番目に安定なものとしてあることが分かった。面心立方晶に転移後に二重六方最密構造が2番目にエンタルピーが低いこと、それと面心立方晶とのエンタルピーの差が圧力増加に伴って大きくなっていくことも分かり、共存相の存在と圧力増加でなくなる様子も理解できた。さらに、体心立方晶から面心立方晶に変化するのは体心立方晶が正方晶歪を起こすことによることも示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大規模系への適用を目指すために、One-shot Enthalpy used Random Search(OSE-RSS)法を開発したが、ランダムサーチ法全般にある探索空間を取りこぼしていないかという問題を解決しなければ、結果に対する信頼が十分得られないことが最重要課題と考えた。まずは探索空間を取りこぼしなく網羅することで探索精度を確保することを重視した。結晶構造は230個の空間群に分類できるので、それを網羅すれば取りこぼしはない。ただし、空間群を与えても格子定数や、空間群によっては内部座標の自由度が残っており、空間群を決めただけで結晶構造が決まるのではない。そこで、充填率をパラメータとして設定して初期構造を生成することにより、実際の格子定数や原子間距離に近い状態を与えられるようにし、極端に原子間距離が近いなどの非物理的な構造は排除している。対称性が低い構造では格子定数の比と内部座標の自由度があるが、現状では乱数を用いて与えている。これは網羅する観点からは改良するべきである。テルルで調べた構造はhcpのようなc/aの自由度しかなく、原子数も少ないので類似の構造で補えていた可能性がある。あと、カットオフエネルギーによる計算精度が予想以上に重要であることも分かった。 全空間群を網羅する場合、対称性が高い構造は非常に少数に絞り込めるが、対称性が低い場合はそうはいかない。有限とは言え原子数が増えると大規模系に適用するには改良が必要である。今回は考え方を変えて、ランダムサーチ法で探索するのに加えて重要性が高い空間群の構造を増強するという考えで、三方晶から立方晶までの構造は漏れなく調べるという立場に立って行った。実際に、OSE-RSS法でも求めたい構造は求められており、増強した空間群においては類似の別の可能性はないことを確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
大規模系に適用できる確実な探索精度を持った方法にするには、これまでのテルルの高圧相の適用例から、カットオフエネルギーの精度は落とせないことが分かった。その計算コストを許容しながら対称性が低い構造をどうやって網羅するか、また次の段階の複数元素系に拡張、といったことが次に取り組む課題になる。 最近の構造探索法の最先端の開発では、機械学習でモデルポテンシャルを効率よく作成して高速に探索する方法や、高次元に自由度を導入して最安定構造を探索する方法や、数値解析分野の最適化法から適用していく方法が提案されているが、どれもまだ開発途上である。本研究では、それらを参考にしつつ、計算コストの削減を実現する重要なキーワードとして、データの再利用とデータベースの利用を重視する。例えば、似た構造の収束した電子状態は近いので、それを再利用することで最初から電子状態の収束計算を行うよりはずっと速く収束させられる可能性がある。データベースの利用は、実験的に知られている原子半径など各原子の物理的化学的情報を有効活用して、不適切な構造を計算せずに排除することにする。これらは、開発コストが小さいのに効果が非常に大きい可能性がある。 これまでテルルの高圧相に適用したが、現在Snの高圧相も計算中である。開発と同時に適用例を増やしていく。
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Causes of Carryover |
計算機の見積もりを取った時よりも納品時の金額が低くなったため。
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Research Products
(3 results)