2020 Fiscal Year Research-status Report
2バンド系1次元伝導体におけるバンド間相互作用による特異な電子相の系統的研究
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19K03720
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
開 康一 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (00306523)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
松浦 弘泰 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (40596607)
石井 康之 芝浦工業大学, 工学部, 教授 (90391854)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ニ鎖一次元伝導体 / NMR / 反磁性 / 圧力下測定 / 磁場誘起CDW |
Outline of Annual Research Achievements |
二鎖一次元分子性導体HMTSF-TCNQ での (1) 異常な反磁性の起源の解明、および (2) 磁場で誘起される新たな電子相の可能性の検証、の二点が主な目的である。(1) 異常な反磁性を明らかにするために 1) 参照試料としていくつかのTCNQ錯体を合成し、その試料での静磁化率測定と13C-NMR実験、2) 常圧における強磁場NMR測定、3) ホール効果や熱起電力測定、及び 4) 第一原理計算とtight bindingモデルを用いた理論計算、がなされた。1) 及び2) は東北大学金属材料研究所強磁場センターでの強磁場NMR実験で様々な温度領域、磁場領域の測定が継続中である。令和 2 年度は特に 3) 及び 4) で大きな進捗があった。3) 東北大学との共同研究により常圧での電気抵抗、ホール効果と熱起電力の測定が行われ、低温相は半導体的な振る舞いを示すこと、CDW 転移温度以上においても約100 K 以下で正の磁気抵抗が現れること、磁気抵抗が極めて異方的であり、伝導面に垂直に磁場をかけた場合は 2 桁以上にも達する大きな正の磁気抵抗を示すことなどが明らかになった。4) では近年良質な試料で新たに行われたた結晶構造データを用いて第一原理バンド計算とtight bindingモデルを用いたバンド計算が行われ、常伝導状態ではトポロジカルな班金属状態であること、CDW転移がおおむね実験で報告されている波数で起きること、計算された磁化率の実験値を再現すること、などが確認された。輸送特性の測定や理論的研究の進展もあり、目的に掲げた(1) についてはかなりの部分が明らかになりつつある。また、「有機軌道反磁性会議」を複数回オンラインで開催し、本物質のみならず軌道反磁性についての発表/議論の場を提供することができた。(2) の目的のための圧力下での測定も一部を開始している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
常圧で観測される反磁性やCDW転移に関する理論研究がかなり進展したこと、磁気抵抗や熱起電力など輸送特性の実験が行われ、結果が出ていること、これまで明らかでなかった本物質でのNMR超微細結合定数を実験的に決められたのでNMRの結果を定量的に解析することが可能となったこと、など巨視的/微視的測定と理論のそれぞれの実験や解析が進展しており常圧での振舞いについてはかなりの部分が明らかになってきた。 これらの結果を踏まえ、磁場誘起CDWが議論されている圧力下での測定や解析に着手しており、研究はおおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
常圧におけるCDW転移は実験からも理論からもで確認できた。また、反磁性について理論的にはかなりの部分が明らかになった。これらの知見を圧力下での測定や解析に生かす。一方、CDW状態での磁気抵抗の異常など、新たな問題点も明らかになった。 今後は、1) 常圧の、特に低温での電子状態を詳細まで含めて明らかにする。理論計算で得られたバンド構造の詳細は大いに参考になるはずである。また、2) 圧力下での測定を静磁化率、NMR、輸送特性、すべての測定で進める。一般に圧力下での静磁化率の測定は困難であるが、NMRや輸送特性のデータから議論できる方法論を模索する。
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Causes of Carryover |
新型肺炎の流行により特に外部での実験計画を立てることが難しくかったこと、成果や今後の研究についての意見交換を行うための研究会の実施を見送らざるを得なかったことが理由である。
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