2020 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical study on novel properties of 4d-, 5d-transition-metal compounds on honeycomb lattices
Project/Area Number |
19K03721
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
菅 誠一郎 兵庫県立大学, 工学研究科, 教授 (40206389)
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Project Period (FY) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | ハイゼンベルク・Γモデル / 蜂の巣格子 / クラスター展開 / 数値厳密対角化 / 基底状態相図 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、蜂の巣格子上の異方性を持つJ-Γモデルの基底状態相図を調べた。このモデルは、対称非対角相互作用(Γ)とハイゼンベルグ相互作用(J)から構成される。具体的には、ダイマー極限からスタートしてダイマー間相互作用を強くし、等方的に相互作用をする蜂の巣格子系までの基底状態相図を、数値厳密対角化とクラスター展開により調べた。さらに、1次元モデルからスタートし、蜂の巣格子を形成するように鎖間相互作用を強くして、等方的相互作用をする系までの基底状態相図を、数値厳密対角化により調べた。得られた結果を総合して、ダイマー極限から1次元極限までの広い範囲で、このモデルの基底状態相図を明らかにした。具体的な結果は、以下の通りである。 1)1次元系の極限では、朝永・ラッティンジャー流体相、2種類の長距離磁気秩序相が現れる。鎖間相互作用を強くすると、JがΓより著しく弱い場合を除いて、これらの3状態は2次元長距離磁気秩序状態へと移り変わる。 2)ダイマー極限で実現する3重項ダイマー状態は、J<0かつΓ>0の場合、等方的相互作用をする系まで続き、等方的相互作用をする系は相転移点になっている。それ以外の場合は、3重項ダイマー状態は等方的相互作用系に到達する前に、磁気秩序状態に相転移する。 3)これらの結果は、また、Γ相互作用だけを持つモデルで予言されていた量子スピン液体状態は、存在しない事を意味している。 キタエフスピン液体の候補物質であるα-RuCl3などのミニマルモデルは、キタエフ相互作用(K)と、上記の二つの相互作用から構成されると考えられている。昨年度得られたK-Γモデルの基底状態相図と合わせて、α-RuCl3などのミニマルモデルの基底状態相図の全容の大部分が明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は計画していた研究の中から、キタエフスピン液体の候補物質のミニマルモデルの基底状態相図を求めるための研究を行い、「研究計実績の概要」に書いた成果を得た。前年度に投稿していた論文は、専門誌に掲載された(Yamada, et al., Phys. Rev. B 102, 024415 (2020))。今年度の結果は、国際会議、米国物理学会、日本物理学会などで発表すると共に、論文にまとめて投稿中である(Suzuki, et al., arXiv:2012.04894)。さらに、1次元モデルから出発して鎖間相互作用を強くする場合の計算方法を確立したので、それをK-Γモデルに適用し、より広いパラメータの範囲でK-Γモデルの基底状態相図を議論するための研究に着手している。そして、キタエフ相互作用(K)、対称非対角相互作用(Γ)、ハイゼンベルグ相互作用(J)で構成されるキタエフ候補物質に対するミニマルモデルの基底状態相図を、相互作用の異方性を含む広いパラメータ空間で明らかにする研究に着手する予定である。 ここ2,3年、キタエフ候補物質に乱れを取り入れた系の研究が、理論・実験の両面から活発に行われている。そこで、当初計画していたキタエフモデルの磁場中での性質に関する研究を拡張して、乱れの効果を取り入れたキタエフモデルの磁場中での性質を調べる研究の準備を進めている。 以上のように、当初計画していたクラスター展開による研究は順調に進展し、最新の研究動向に注意しながら他のテーマの研究も進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の研究を行う。 1)1次元K-Γ-Jモデルから出発して、蜂の巣格子を形成するように鎖間相互作用を取り入れ、等方的相互作用する系まで鎖間相互作用を強くした場合の基底状態相図を、数値厳密対角化により調べる。また、K-Γ-Jダイマーモデルから出発して、ダイマー間相互作用を等方的相互作用の系まで強くした場合の基底状態相図を、数値現道対角化とクラスター展開で調べる。得られた結果を総合して、ダイマー極限から1次元極限までの広いパラメータ領域で、キタエフ候補物質のミニマルモデルであるK-Γ-Jモデルの基底状態相図を明らかにする。 2)ここ2,3年、キタエフ候補物質に乱れを取り入れた系の研究が、理論・実験の両面から活発に行われている事を背景として、乱れの効果を取り入れたキタエフモデルの性質を調べる。Z2ゲージ場中での遍歴マヨラナ粒子のグリーン関数を用い、乱れの効果を多重散乱効果として取り入れ、乱れを強くした場合に、キタエフスピン液体からアンダーソン局在状態に移り変わるのに伴い、熱力学的性質や動的性質がどのように変化するのかを明らかにする。さらに、磁場の効果を取り入れた計算も視野に入れる。 3)キタエフ候補物質にキャリアをドープした場合に超伝導状態が現れるかどうか、およびそのクーパーペア対称性を調べる。まず、バンド構造を密度汎関数法で計算し、その結果を基に揺らぎ交換近似で有効電子間相互作用を計算する。そして、エリアシュベルグ方程式によりクーパーペア対称性、および超伝導転移温度を調べる。
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Causes of Carryover |
国際会議のための外国出張、および国内学会・研究会のための出張に対する予算を計上していたが、コロナ禍でこれらの開催が中止、延期、web開催となったため、次年度使用額が生じた。現時点では、次年度に開催予定の国際会議・国内会議の多くが未定のため具体的な予定は立てられないが、これらの現地開催が決まればコロナ禍の状況を見ながら、参加するかどうか判断する。また、専門家に広くアピールしたい結果が得られているので、掲載料は高いがオープンアクセスの専門誌に論文を投稿する予定である。
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Research Products
(8 results)